引き留め策を考えるポイント
新卒採用をテーマに市場動向や学生の意識、企業の取り組みなどについて解説します。今回は、横浜国立大学大学院の准教授、服部泰宏さんにご執筆いただきます。
就活学生が行う2つの意思決定
就職活動においてエントリーから入社までの間、求職者の学生は少なくとも2つの重要な意思決定を行うことになります。1つは、その企業で就職活動を継続するかどうかという、就職活動の前半から中盤で行われる決定。もう1つは、企業から出た内定(あるいは内々定)を受け入れるかどうか、という就職活動後半における決定です。
こうした求職者の意思決定に関しては、欧米を中心にかなりの蓄積があって、日本でも少しずつ研究が始まっています。
例えば米国カルガリー大学のデレク・チャップマンの研究では、「その企業で就職活動を継続するかどうか」という前半戦の決定は、その「会社のイメージやフィーリング」のような曖昧な理由によって行われており、「仕事特性(職務内容、扱っている製品など)」「組織特性(組織の文化、組織内の人間関係など)」「リクルーターの良し悪し」「採用プロセスへの評価(説明会、面接など、さまざまな採用における会社側の手際の良さ、面接でのさまざまなやりとりなど)」といった具体的な点はあまり考慮されていません。
ところが、就職活動も後半戦にさしかかり、いよいよ内定の通知を受け入れるかどうかを判断する場面になると、「イメージやフィーリング」の重要性は下がり、その代わり「仕事特性」「組織特性」「リクルーターの良し悪し」「採用プロセスへの評価」など、さまざまな理由が重要になってくるということが報告されています。
複数企業から内定を得た日本の就活生を対象に行った、筆者自身の研究でも、最終的な決定に関して、「説明会ではグローバルにビジネスを展開すると言っていたのに、面接をした担当者は海外事情に疎かったため、この会社は大丈夫かなと思った」とか、「説明会や面接などの採用フロー全体が非常に緻密に設計されていて、すごい会社だと思った」といった声が多数聞かれました。
前半戦は曖昧、後半戦は具体的
この結果には、少なくとも2つの大事な問題が含まれていると思います。1つは、求職者は就職活動を通じて成長するということ。就活の前半戦、求職者たちは、企業を評価するだけの基準を持ち合わせていないことが多い。そのため当初は、自分自身がもっている企業の印象、広告やテレビコマーシャルから受け取るフィーリング、説明会で見た人事担当者の雰囲気といった曖昧なものを手掛かりに、企業の魅力度を推し量り、そこでの就活を継続するかどうかを判断することになります。
ところが就職活動も終盤ともなると、求職者たちはすでに多くの企業と出会い、働き方や社会との接し方について、さまざまな学習を行っている。その結果、企業を評価する自分なりの基準なり軸なりが形成され、上記のような具体的かつ多角的な視点から企業を評価するようになるのです。
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●文/服部泰宏(はっとり やすひろ)
1980年神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院・同大学経営学部准教授。2009年神戸大学大学院経営学研究科マネジメント・システム専攻博士課程を修了し、博士号(経営学)取得。滋賀大学経済学部専任講師、同准教授を経て、2013年4月から現職。著書に『日本企業の心理的契約 増補改訂版:組織と従業員の見えざる約束』(白桃書房)などがある。
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