人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2021年4月15日)
私は企業の管理職研修の講師を務めることが多いのですが、受講者の方に対して、「人間が組織について考え始めたのはいつ頃からだと思いますか?」という質問をすることがあります。「狩猟が始まったころ」「農耕が始まったころ」「縄文時代」「弥生時代」「マンモスの時代」「人類がそもそも誕生したとき」…などなど、いろんな答えが返ってきます。
あらゆる生き物の究極の目的は種(しゅ)の保存であり、生き抜くということにつきます。そのためには食糧を確保する必要があり、狩猟や農耕などは1人だと成果を得づらいので、結果的に多くの人たちが共通の目的のために組織化されていったのではないかと推測できます。
だとしたら、人類が言葉を持つよりもずっと以前から組織というものを持っていたとも考えられます。さらに言うなら、生物学上、オスとメスがいて子供が生まれると家族という単位になるわけですが、これも組織の最小単位といえるかもしれません。
私の出身地の大分県には高崎山という有名な山があって、そこでは野生の猿が群れをつくって生息しています。確か3つの群れがあり、それぞれが数百頭の猿によって構成されていて、いわゆるボス猿というリーダーが群れを率いています。これも組織ですね。
そんなことを言ったら、「蜂やアリも組織的な動きをして巣をつくり、女王蜂や女王アリを守っているじゃないですか」と、突っ込みを入れられそうです(もちろん本能的な行動なのでしょうが)。
つまり、人間だけではなく動物や昆虫にも組織があるということです。そう考えると、「人類がそもそも誕生したとき」という答えは、あながち間違っていないかもしれません。
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組織について書かれた最も古い文書は、旧約聖書の中のモーゼが祭司エテロから叱られる場面だと言われています。モーゼという人は、何もかも1人でやってしまおうとする傾向があり、そこをエテロから指摘されます。
「お前がすべてを抱え込むと、やがてお前も民も疲労困憊(こんぱい)してしまうだろう。お前はすべての民の中から有能で信頼すべき人を選び出し、それらの人たちを千人の頭(かしら)、百人の頭、十人の頭として彼らの上に置くがよい」
その後、モーゼはエテロの忠告を聞き入れるわけですが、この部分こそが大きな集団を単位組織に分けて、階層構造を作って管理することに関する最初の記述なのだそうです。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。