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人材育成のツボ

コミュニケーションエラーを回避する魔法の言葉

企業の人材育成をテーマに、研修事例の解説や考察、書き手が仕事を通じて感じたことなどをつづります。(2025年9月4日)

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セレモニーのような形だけのやりとり

「ん〜〜、そういうことじゃなくってね」
 
 そんな風に、若手スタッフに対して「え、なんでそうなったの?」と面食らった経験、ありませんか? しかも、伝えた内容をまるで違う形で返してきたのに、なぜか本人は自信満々。実はこうしたすれ違い、私が研修現場でよく耳にする「あるある」なんです。私はこれを勝手に「セレモコミュ」と呼んでいます。「セレモニーのような、形だけのやりとりで、本質的な意味を持たないコミュニケーション」のことです。





 背景には、今の若手世代、特にZ世代の特徴が関係しています。もちろん全ての若手ではありませんが、彼らに共通して見られる傾向のひとつに「失敗への極度の恐れ」があります。私自身は昭和世代の55歳。「失敗は成功のもと」「当たって砕けろ」で育ってきました。私世代も失敗は怖いと感じていましたが、今の若手が抱える「失敗」の重みは、次元が違うようです。

 その理由のひとつが、SNSです。彼らは物心ついたときからSNSに囲まれて育ってきた世代。炎上、誹謗中傷、特定といった現象が、テレビの向こうの話ではなく、友人や知人の身に実際に起きることとして日常に存在しているのです。だからこそ、たった一度の「分かっていなかった」が「致命的な失敗」となる、そんな思い込みが無意識に刷り込まれているんですね。

 指示したことを「分かった?」と聞くと、「はい」と反射的に答えます。でも実際には咀嚼できていません。でも「分かってない」と言えば怒られる、「失敗」になるという思いから、とりあえず「はい」と言っておいて、いざ復唱を求められると、丸暗記したフレーズをオウム返し。これなら間違いようがないからです。
 こうして、本質を理解しないまま「分かったフリ」のやりとりが続きます。結果、出来上がってきたものはまるで期待していたものとは違う…。これがセレモコミュです。


確認ではなく、チェックしてもらう

 では、どうすればいいのでしょうか。私がおすすめしているのは、「確認」ではなく「チェックしてもらう」こと。キーワードは「教えてください」です。確認のやり方は、2パターンあります。

A「じゃあ、指示した内容を自分の言葉で復唱してみて」

B「実は私、伝え方に自信がなくて。どう伝わったか、教えてもらえませんか?」

 Aの言い方(確認)をすると、相手は面接試験のような緊張感を感じます。「絶対に失敗できない」という思いのもと、相手は「その場の切り抜け方」を考え、コピペした答えをオウム返しします。
 しかし、Bの言い方(チェック)だと、心理的ハードルはぐっと下がり、「あ、頼られてる」と感じてもらえます。「教えてください」は、実は相手に圧をかけない魔法の言葉なんです。次に、返答に対する反応です。

<返答が正しい場合>
「さすがだね。あなたの理解力のおかげで助かったよ」(相手を讃えましょう)

<返答が間違っていた場合>
「ごめんごめん、伝え方が悪かった。実はこうしてほしかったんだよね」(自分の伝え方に原因があったことにしてしまいましょう)

 「なんでこっちが謝らなきゃいけないの?」と思う方もいるかもしれません。でも、その一言で手戻りが防げ、時間的・人件費的コストが削減できることを考えると安いものではないでしょうか?
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●文/桑山元(くわやま げん)
お笑い芸人・俳優・研修講師。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。
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