第19回 頭でっかちな「自分探し症候群」の部下をどう導くか?
現場マネジャーに向けて、リーダーとしての心構えやマネジメントの手法などを解説します。
行き過ぎたキャリア教育
「想像していた仕事と内容が違った」、「仕事にやりがいを感じられない」、「希望どおりの配属先ではなかった」など、入社前に思い描いていたイメージと実際に現場で働いてみてのギャップに悩む人が増えています。悩むだけならまだしも、「本来の自分を探したいので」などと、すぐに会社を辞めてしまう人もいるほどです。 転職さえすれば、「本来の自分」が見つかると安易に考え、会社を辞めてしまうのです。新卒で入社した会社を3年以内に3割の人たちが辞めてしまうというデータもあります。「石の上にも3年」という言葉がありますが、その3年の我慢ができないわけです。
最近は、大学にキャリアセンターというものができて、そこでキャリア教育を推進しています。もちろんそれ自体はけっして悪いことではないのですが、「自分のキャリアを主体的に捉える」という基本的な考え方をやや行き過ぎて受け止めてしまい、「自己分析して自分に合った仕事を探して、自己実現のためにキャリアアップしなければならない」という凝り固まった考え方にとらわれてしまい、その状況から少しでも自分が逸脱していると感じると、そこから抜け出なければならないという強迫観念にも似た思いを持つのです。
もちろんブラック企業など、反社会的な存在である会社や根本的な価値観の違う企業に入社した場合は、その限りではありませんが、今の環境から逃げているだけの転職なら、成功がおぼつかないどころか、転職を繰り返してしまうジョブホッパーになりかねません。「ここより他に理想の場所があるはず」と青い鳥を永遠に探して回る「青い鳥症候群」にも似て、「この会社ではなく、自分に合った理想の会社や職場が絶対に他にあるはず」と、職を転々とするのが、この「自分探し症候群」です。
自分探しのスパイラル
ただ、社会人になって日が浅いうちは、自分の「やりたいこと」よりも、会社から期待される「やるべきこと」を全うすべき段階が、働き手には必ずあります。希望の部署に変わりたいという異動希望も同様です。希望を出すこと自体を否定しませんが、だからこそ、今の部署の仕事で結果を出すことに注力させることです。 仕事の基本的なスキルは、業界や職種の垣根を超えた共通部分が意外に大きいものです。「持ち運びが可能な」という意味で、ポータブルスキルと呼びますが、ポータブルスキルには、「対人力=人に対するコミュニケーション能力」、「対課題力=課題や仕事への処理対応能力」、「対自分力=行動や考え方のセルフコントロール能力」などがあります。
目の前の仕事に真剣に取り組んでいれば、社会人としての基礎力がついて、仕事の本質を見極める力もついてきて、「自分探し」のスパイラルに陥っている部下も救い出されることがあるのです。 もしあなたの部下が、この「自分探し症候群タイプ」なら、今の部署で必要とされる存在になってから、次の段階を目指そうとアドバイスしてあげてください。
私がよく部下に言うフレーズが、「やりたいことをやる前に、やるべきことに一生懸命になっていれば、やれることがたくさんできてくるから、それからやりたいことに挑戦したほうが、むしろ可能性は高くなるよ」というもので、険しい山を最短距離で登ろうとして思わぬ事故に遭うよりも、遠回りしたほうが意外に山頂には到達しやすいということです。
20代のキャリア形成は、「ボートの激流下り」に似ています。どういうことかというと、ボートに乗って激流を下るときには、自分の意志とは関係なく、目の前に次々と現れてくる大きな岩や木々や岩壁などの障害物に対処しながら、必死にオールを漕ぐことで、川下に進んで行きます。
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●文/田中和彦(たなか かずひこ)株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)など多数。連絡先:info@planet-5.com
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