第45回「暴力団に関わったら」
職場のメンタルヘルスに関する事例・対策などについて、専門家が解説します。
普段は気がつかないが、日本には犯罪集団である暴力団がいる。暴力団対策法という法律で、市民は守られているはずなのだが、ふとしたことで彼らに遭遇しないとも限らない。
車の事故
尚哉は、業務用機械メーカーに勤務してちょうど1年。その日は車で遠方の客先を訪問していた。帰り道、後方からスピードを上げて接近してくる車があったので、少し加速した。その瞬間、前を走る車が急ブレーキを踏んだ。尚哉も急ブレーキを踏んだが、間に合わず衝突。同時に後続車ともぶつかった。道路の端に車を寄せると、前後の車から人相の悪い男たちが降りてきた。
車から降りてきた男たちは怒鳴ったり、痛みを訴えたりしていた。前後の車は外車で、2台とも高級車だ。彼らは「一緒に会社に行こう。会社に損害賠償してもらおう」などと言い、尚哉を車に乗せた。彼らに「示談にしよう」と言われたので、尚哉は警察や保険会社を呼ばなかったのだ。恐怖心もあり、動揺してその場で適切な対応ができなかった。会社に着いて社長に事故と事情を話すと、顔面蒼白になった。
会社に来られる
翌日、尚哉は出社すると、彼らがやって来て「治療費払え」「休業補償しろ」「損害賠償しろ」などと言われ、仕事にならなかった。警察を呼んで対処しようとも考えたが、社長が「後々面倒なことになったらいけない」という恐れから、ある程度のお金を支払った。その後、尚哉は家にまで同行され、脅された。
それからというもの、尚哉は強い恐怖心に襲われ、夜も眠れず、うつ病になっていった。連日不眠ということもあるが、食欲も気力もなくなった。毎日のように彼らの悪夢を見た。彼らがいつ部屋に来るか、またいつ会社に来るか、いつどこで遭遇するか、そんなことばかり考えていた。そしていっそ彼らを殺して、自分も死のうとまで考えるようになった。
やがて、尚哉は彼らがまた会社に来るのかと思うと恐ろしくて、出社できなくなった。
入社した会社が…
転職活動をしていた祐一は、不動産会社に採用された。今までと同じ営業職だ。前職では車の営業をしていたが、なかなか業績が上がらず、退社してしまった。初めての不動産の世界で、頑張る覚悟だった。担当は中古不動産の買い付けである。将来値上がりしそうな不動産を安く買って、高値で売る仕事だ。利益が大きくなれば収入も大きい。ところが、その部署では問題行為をやっていた。
その会社はうその不動産買付書を出し、後から売主を探すインチキなやり方をしていた。自社で買うふりをして買わず、本当の買主が出てくるまで決済を引き延ばすのだ。買主には利益を乗せた別な価格を提案して、その差額を儲ける仕組みである。
実はその会社は暴力団が出入りしていた。祐一は犯罪行為に手を染めたくないと思い、仮病を理由に退社しようとした。でも、なかなか辞めさせてもらえなかった。やがて、さまざまな心労からうつ病になってしまった。
※次ページ以降の閲覧には、会員登録(無料)が必要です
●河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
この記事のキーワード
クリックすることで関連する記事・データを一覧で表示することができます。
一覧ページへ戻る
その他のコラム記事を見る