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メンタルコントロールは仕事の成果や自己成長につながる重要なスキルです。ビジネスシーンでわき起こるさまざまな感情との向き合い方を解説します。(2021年6月24日)
30歳、ベンチャー企業の部長職にある方からの相談。社長にスカウトされた形で入社して2年。昨年はコロナへの対応もあり、1年間ずっと走りっぱなしだった。今年に入ってから春先のイベントをきっかけに、急に気力が出なくなってしまった。大学時代の友人に相談すると、「そんなブラックな企業は辞めちまえ」というアドバイス。自分でも確かにブラックだと感じるが、何とか休まず、退職せずに、仕事をやり遂げたいと思っている。
分かっていても行動できないのがうつ状態
このクライアントが私のところに相談に来たとき、睡眠時間は2〜3時間、思考はストップし、仕事が進まない状態でした。そのため、社長とも折り合いが悪くなっていました。食欲もほとんどなく、何より急に意欲がなくなったことに、ひどく自信を失った感じが見受けられました。
いわゆるうつ状態にあったので、私はうつ状態への基本的な対処、休養、受診、環境調整を勧めてみましたが、どれにもいい顔をしません。頭のいい彼は、私の説明を、うつ状態の頭の働かない状態でもきちんと理解し、理性では長期休養もしくは退職するべきだと理解していました。ところが、心がその方向に向かないのです。
うつになると誰でも4つの方向に思考が偏る
うつ状態というのは、精神科の疾患です。なぜ精神科の疾患に位置付けられるかというと、思考、感じ方が本来の本人のものとは変わり、ある一定方向のバイアスが強くなるからです。
うつ状態の特徴的な思考として、私は、無力感(自信低下)、罪悪感(自責感)、不安感、負担感の4つを挙げています。この4つは元気なときでも、何かがあればそれ相応に感じるものですが、うつ状態になると「いつもの3倍ぐらい強く感じる」と想像していただければよいと思います。
このクライアントも、かなりうつに偏った思考になっていました。冷静な分析力もある程度残っているので、このままこの会社にいたら「自分の健康が危ない」ということも分かっています。ただ、先述した4つの偏った思考が、下記のような心理状態にさせていました。
無力感:ここで投げ出したら、自分には何も残らない。
罪悪感:自分だけ会社を抜けると、残ったメンバーを苦しめてしまう。残ったメンバーから、ひどい人だと言われるのが怖い。
不安感:確かに今の仕事を続けていっても、よいことはないような気もする。だが、辞めたからといって、次の仕事が見つかるなどという保証はない。むしろ新しい1歩を踏み出す方が不安が大きい。
負担感:受診、休養、環境調整が必要だということが理解できた。だが、いざそれを社長や同僚に説明したり、どこの病院にかかればいいかを調べたり、いつまで休むのか、その間の仕事の申し送りはどうするのか、などを考えること自体ができそうもない。それよりは日々のつらい日々をやり過ごしていく方がマシだ。
彼の同僚、大学時代の友人などが勧めるように、冷静な状態だったら、この会社に残ることと新しい仕事を探すことのメリット・デメリットをきちんと分析して、軽やかに行動できたかもしれません。しかしいったん、うつ状態になると、4つの思考とエネルギーの低下が私たちをすくませてしまうのです。
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●文/下園壮太(しもぞの そうた)
元陸上自衛隊メンタル教官、メンタル・レスキュー協会理事長、同シニアインストラクター。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸自初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングなどを行う。退官後は講演や研修を通して、独自のカウンセリング技術の普及に努める。『自衛隊メンタル教官が教える心をリセットする技術』(青春出版社)、『50代から心を整える技術』(朝日新書)など著書多数。
https://www.yayoinokokoro.net/
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