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メンタルコントロールは仕事の成果や自己成長につながる重要なスキルです。ビジネスシーンでわき起こるさまざまな感情との向き合い方を解説します。(2021年8月24日)
38歳男性、営業職。コロナの影響もあって3月から6月までの間、かなりプレッシャーのある仕事をする必要があった。4月頃から徐々に調子を崩し、不眠、食欲不振、持病の肋間神経痛などの症状が強くなってきた。病院に行っても「ストレスですね」と言われてしまった。最近は他部署の上司や顧客先に会うのも、かなり気持ちを整えなければ足が向かない状態になっている。見かねた上司に勧められてカウンセリングを訪れた。
過労とプライベートでのトラブル
男性に話を聞いてみると、春ごろから数カ月にわたるオーバーワークで疲弊し、それに加えて恋人とのトラブルなどが重なり、うつ状態になっているようでした。本来は大変社交的な人のようですが、うつ状態による対人恐怖が強くなっており、営業という仕事自体が今、とてもつらくなってしまっています。
こういう場合は1カ月ほど、負担になっている仕事から離れて、ゆったりと休養し、できれば睡眠を確保するために心療内科などを受診すれば元に戻るケースが多いです。そのことを彼に伝えましたが、受診や仕事を休むことに強い難色を示しました。
今の仕事は自分ひとりで背負っているので「自分が休めば会社に大きな影響を与えてしまう」とか、1カ月休んだ後には「どうせ自分が休んだ分の仕事をやらなければならず、そちらの方が負担だ」「精神科や心療内科を受診すると、今後のキャリアアップにも影響がある」など、休めない事情を私に説明してくれました。「忙しいのは僕だけでありません。こんなことで音をあげていては、これから先、もっと厳しい仕事が来たとき、やっていけません」とキャリアを気にする彼からは、「これからのこと」が何度も話に出ました。
「子供の心の強さ」と「大人の心の強さ」
休まなければならないことは頭で分かっていていても、心がそれを認めない方は非常に多いです。そういう方には「本当の心の強さ」という話をしています。
私は心の強さには、「子供の心の強さ」と「大人の心の強さ」の2つがあると考えています。子供の心の強さは、何があっても、逃げずに、全部、完全に、1人でやりきる力。小学生や中学生のとき、勉強やスポーツなどで、この力が求められ、鍛えられてきました。そのことばかり鍛えてきたので、これが本当の心の強さだと勘違いしている人が多いです。
我慢する、頑張るやり抜く1人でやり抜くというのは、確かに必要な心のスキルかもしれませんが、それが適用されるのは極めて「恵まれた条件」だけです。恵まれた条件というのは、環境の厳しさやタスクが「1人で何とかやれる範囲」に整っているということ。確かに学生のときは、勉強にしろスポーツにしろ、指導する先生や大人が見守ってくれ、適切な刺激の範囲にしてくれています。また、就職しても新卒のときは、組織や法律がある程度、刺激をコントロールしてくれる中で活動できます。
だから、子供の心の強さでなんとかパフォーマンスすることができるのです。ですが、社会人として独り立ちし、責任や義務を負う立場になると、それでは耐えられなくなります。
私は元自衛官ですが、もし戦場で「1人で戦います」とか「1人でやりきります」などという兵士がいたら、あまり信用できません。相手が強かったり、環境が厳しかったりする場合は、きちんと仲間の援護を受けて撤退し、しかる後に態勢を立て直してもう一度任務遂行に臨むという、しぶとい、しなやかな心の強さが必要になります。これを私は「大人の心の強さ」と呼んでいます。
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●文/下園壮太(しもぞの そうた)
元陸上自衛隊メンタル教官、メンタル・レスキュー協会理事長、同シニアインストラクター。防衛大学校を卒業後、陸上自衛隊入隊。陸自初の心理幹部として、自衛隊員のメンタルヘルス教育、リーダーシップ育成、カウンセリングなどを行う。退官後は講演や研修を通して、独自のカウンセリング技術の普及に努める。『自衛隊メンタル教官が教える心をリセットする技術』(青春出版社)、『50代から心を整える技術』(朝日新書)など著書多数。
https://www.yayoinokokoro.net/
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