第25回「サイコなワンマン社長」
転職先のワンマン社長に振り回され、精神的に病んでしまった男性の事例です。
世の中には謙虚な人もいるし、傲慢(ごうまん)な人もいる。さて、自分の会社の経営者はどんな人格だろうか。できれば人格者であってほしいものだ。しかし、経営者の中には、とてつもなく変わった人格の人間がいる。
独裁者の登場
38歳の邦彦は、従業員15人ほどの小さな建築関係の会社に就職した。その会社は採用募集広告でアットホームな社風とうたっていたが、入社当日から驚くことがあった。邦彦が仕事内容について聞こうとすると、社長は「仕事中はハイだけ言っていればいいんだ。どうすればいいんですか、なんて聞くんじゃないよ。仕事を教えるのは大変で疲れるんだよ! 他人の立場にたって考えれば分かるだろ!」と言った。そして現場に行くと、社長は仕事のやり方を教えてくれることもなく、「何やっているんだ!」と怒鳴るだけだった。
また、邦彦が慣れない仕事なので少し休憩していると、「なに休んでいるんだ! 仕事もできないくせに、休んでいたら仕事にならないだろう。さっさとやれ、バカ!」と怒鳴られた。さらに、残業してようやく仕事が終わると、「仕事が遅いヤツがいるから、残業になってしまうんだ! あとで残業代くれなんて、言うんじゃねえぞ! そういうバカな世間知らずは、いつまでたっても仕事ができないヤツなんだからな!」と言われた。
ひたすら罵倒される毎日
あるとき、休日出勤することになった。すると「仕事をして金をもらうのが、甘くないことは分かるよな。まともな仕事ができる人間には誰でも金を支払うだろ。でも、仕事のできない人間に誰が金を払うんだよ! 休日出勤の上乗せはないからな!」などと言われた。
翌日、汚れた洋服をきれいに洗濯して出勤すると、朝一番に「仕事のできない人間に限って、服装だけは立派なんだ。もっと目立たないようにしていればいいんだ、バカ!」と言われた。
邦彦は毎日のようにバカ呼ばわりされ、仕事も教えてもらえることもなく、ひたすら怒鳴られることに耐えられなくなった。会議のとき、社長に「自由に意見を言ってくれ」と言われたので意見を言うと、「仕事のできない人間の意見なんか聞いてないんだ、バカ」と長時間怒鳴られ、「さっさと帰れ」とどう喝された。
この会社で働く従業員は次々に、過労で倒れたり、うつ病になった。仮にその独裁状態に耐えたとしても、自分は本当に無能で何をやってもダメな人間だと思ってしまうようになるのだ。そして、残った従業員たちは新人をいじめて、ストレスを発散していた。
独裁的な支配
こうした独裁的な支配者は、恐怖で支配する。「いつクビにするか分からない」と言って脅す。従業員がその支配に従属してきたのが分かると、自分の好きなように働かせるのだ。気分次第で過酷な過重労働をさせたり、報酬をカットしたり、そのときの気分で従業員をどう喝する。
恐怖で支配されている従業員は、冷静に、合理的に判断することができなくなり、盲目的に従ってしまい、その恐怖支配から抜け出られなくなってしまうのだ。
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●河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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