新卒採用を見直すヒント〜現状と課題〜
現在、企業の採用活動はさまざまな課題を抱えています。それに対して科学的観点からアプローチし、採用活動の効率化を支援し、社会に貢献することを目的とした新しい学問があります。採用学です。その第一人者である横浜国立大学大学院の准教授、服部泰宏さんに今回から2回に渡ってご執筆いただきます。
いよいよ2016年卒採用がやってくる
2016年卒から新卒採用の時期を繰り下げる「採用選考に関する指針」が、日本経済団体連合会(経団連)によって発表されました。これにより、会社説明会などの広報活動が大学3年生の12月から3月へ、面接などの選考開始が4年生の4月から8月へ、それぞれ後ろ倒しされることになりました。内定時期は4年生の10月に固定されたままになっていますので、結局、企業と学生が採用を目的として接触できる期間が、もともとの11カ月から8カ月へと短縮されたことになります。
採用活動期間の短縮化は何をもたらすか。私の予測では、少なくとも2つのことが同時に進行するのではないかと思います。
1つは就職ナビを活用した採用競争の激化。企業の採用意欲がこのまま減退しないとすれば、これまでよりも短い期間の中で、優秀な学生を引き付け、見極め、内定を受け入れさせることを、各社がより必死に行うことになるでしょう。まずこのマスの部分で非常に激しい競争が行われる、というのが1つ目の予測です。
もう1つは、水面下での採用競争の激化です。近年、一部の優秀な学生の中には、就職ナビを活用せずに自ら企業に自分を売り込み、内定を獲得する人たちが現れ始めています。また企業の側も、そうした学生が集う人材プール(大学のゼミナールなど)に直接アクセスをしたり、インターンシップによってそうした学生を早期に囲い込んだりということを始めています。就活ナビを活用した人材獲得競争が、外からも「見える競争」だとしたら、こちらは「見えざる競争」ということになるでしょうか。2016年卒採用以降、こうした見えざる競争がさらに進んでいくというのが2つ目の予測です。
では、目の前に迫った2016卒採用をどう乗り切るか。そのためには、そもそも採用活動とはいったいどのような活動であって、そこにどのような問題があるのか、こうした素朴な問題意識に立ち返って、自社の採用を見つめ直すことが最も重要なのではないかと思います。これから2回にわたって、科学的な視点から、こうした点について考えるヒントを提示させていただきたいと思います。
採用活動とは?
そもそも採用活動とはいったいどのような活動なのか。ここでは、このもっとも素朴な問題について、採用活動の時間的な流れと、そこで行われているマッチングの中身という2つの観点から見てみようと思います。
<採用活動の3つのフェーズ>
採用活動を時間軸で見ると、(1)企業側が出した募集情報に反応して、求職者が、企業へとエントリーをすることから始まり(募集)、(2)そうして集まった母集団の中から社員としてふさわしいものを企業側が選び(選抜)、(3)そこで出された内定を求職者が受け入れ、かつ企業の中で活躍するに至る(定着)、という流れになっています。
(1)募集
募集とは、企業側が提示する募集情報をきっかけに、自社に関心を持ち、エントリーをする意欲を持つ求職者を生み出し、その中で特に自社にとって魅力的な人達にエントリーしてもらい、魅力的な母集団(選抜の対象となる人材の集合)を形成する活動をさします。一言でいえば、「求職者との出会いをいかにコントロールするか」ということが、ここでのポイントになるといえるでしょう。
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●文/服部泰宏(はっとり やすひろ)
1980年神奈川県生まれ。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院・同大学経営学部准教授。2009年神戸大学大学院経営学研究科マネジメント・システム専攻博士課程を修了し、博士号(経営学)取得。滋賀大学経済学部専任講師、同准教授を経て、2013年4月から現職。著書に『日本企業の心理的契約 増補改訂版:組織と従業員の見えざる契約』(白桃書房)などがある。
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