第30回「“会社が汚染されている”と訴える男」
職場のメンタルヘルスに関する事例・対策などについて、専門家が解説します。
私たちは知らぬ間に汚染されている。放射線や光化学スモッグ、酸性雨などの大気汚染はいい例だ。また、高濃度の農薬で汚染されたバナナを食べた猿が、3世代目からは奇形になった実験もあった。人間は今後どうなるのだろうか。
汚染を訴える男
直人は「会社が汚染されているんです」と訴えていた。上司が「どこが汚染されているの?」と聞くと、「床やドア、テーブル、パソコンも汚染されています」と答えた。「階段は?」と聞くと、「大丈夫です。汚染されていません」という。
入社1年目の直人は、IT関連の企業に勤務している。入社当時から会社のトイレは汚染されているような気がして、どんなときでも使わなかった。仕方がないので、近所のコンビニのトイレを使っていた。そのトイレに入るときには空間にバツ印を3回描く儀式を行うことで、汚染を浄化したと思い込むようにしていた。
そんな心のトリックを使って切り抜けていたが、会社が汚染されているという感覚は拡大していった。やがて、あらゆる場所が汚染されているという感覚に陥り、とうとう出社できなくなった。きっかけは後輩が入社してきて、その存在がストレスになったことだ。うつ状態も併発し、直人はこのまま二度と出社できないのではないかという強い恐怖心が出てきた。
汚染は本当なのか?
電車の中でインフルエンザにかかっている人がくしゃみをすれば、他の乗客に感染する恐れがある。車内がウイルスに汚染されるのだ。ウイルスはインフルエンザばかりではない。ノロウイルスやエボラ出血熱、天然痘、エイズもある。また、蚊によって媒介される感染症として、デング熱やマラリア、ウエストナイル熱などがある。
大気汚染の問題もある。フォールアウト(放射性下降物)のセシウム137が、福島原発の放射能漏れで東北や関東に沈着していることも考えられる。
そういえば昔、公園のトイレは汚かった。おそらく大腸菌やその他の菌が繁殖していたに違いない。ある温泉施設では、レジオネラ菌が繁殖し、温泉にのんびりつかっていた客が死亡したことがあった。温泉も汚染されるのだ。
汚染は日常生活のさまざまなところで発生している。定年後、家庭菜園で庭の土いじりをしていた男性が、土の細菌が足の傷口から入り、それが原因で死亡したことがあった。汚染されていない普通の土の中にも、人間よりはるか以前より生息していた生物や細菌が数多くいる。子供の頃から、土に慣れ親しんでいない人間の免疫力は低い。自然な土も脅威なのだ。
猫にかまれた老女が死亡したケースもある。人間にはない動物だけが持つ細菌がいる。ペットの細菌で死に至ることもある。また、アレルギー体質の人間にとって、花粉や家のダニは汚染物質だ。紫外線に過敏に反応する人もいる。住宅や建物の建築資材に汚染物質が含まれていることもある。汚染物質は、私たちのまわりにあふれている。
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●河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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