近年、「パワハラ」と言われることを恐れて、部下に十分な注意や指導ができなくなっている上司の方が増えています。その結果、職場の規律が緩み、パフォーマンスが下がるだけでなく、他の部下が不満を抱え、離職につながるケースも見られます。企業には「指導」と「ハラスメント」の違いを理解し、管理職が適切なマネジメントを行える環境づくりが求められています。
■今回の事例
営業部の課長Aさん(40代男性)は、部下の係長Bさん(30代男性)の遅刻や報告漏れが目立つことを気にかけていました。ところが、以前に別の部下から「言い方が厳しい」と指摘された経験があり、それ以来「注意するとハラスメントだと思われるのでは…」と不安を抱え、適切な指導ができずにいました。
そのため、Bさんの行動は改善されず、チーム全体の士気も低下してしまいました。Bさんの部下たちは「上司が注意されないのだから、自分たちも期日を守らなくてもいい」と考えるようになり、だらけた雰囲気になってしまったのです。Aさん自身も「自分は上司として機能していないのでは?」と悩みを抱えるようになりました。

■解説
今回の事例で問題になっていることは、2つに分けられます。1つは、上司が部下にパワハラと言われることを恐れて、注意や指導ができないということです。もう1つは問題を感じているにも関わらず手をつけられず、状況がエスカレートしていることです。それぞれの対処について解説します。まず、パワハラについてです。
ハラスメントと指導の違いを知る
法律では、職場におけるパワーハラスメントを「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境が害されるもの」と定義しています。ここで重要なのは、「業務上必要かつ相当な範囲」内の注意や指導はハラスメントにはあたらない、という点です。
例えば、「遅刻が続いているので、明日からは定刻に出社してください」「報告は毎日17時までに必ず提出してください」といった具体的な業務改善を求める言葉は、適正な指導です。一方で、人格を否定したり、必要以上に繰り返し叱責したりすると、ハラスメントと判断されるリスクが高まります。上司が安心して部下を指導できるようにするには、会社がこの「境界線」を正しく理解し、組織として基準を示す必要があります。
経営方針・目標・評価を明確に伝える
上司が安心して注意や指導を行うためには、組織として共通の物差しを持つことが欠かせません。そのためには、会社としての方針やルールを明確にする必要があります。
�〃弍鎚�針や行動規範を明示する
「遅刻をしない」「報連相を徹底する」といった基本ルールを会社として定める
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抽象的な「協調性」ではなく「会議で他者の意見を聞き、自分の考えを述べる」といった行動基準に落とし込む
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曖昧な基準ではなく、組織全体で統一した評価シートやチェックリストで「できているかどうか?」を確認する
こうした仕組みがあることで、上司の注意は「個人の感覚による叱責」ではなく「会社の方針に基づいた適正な指導」として伝えることができます。
「パワハラを恐れて指導できない」という状況は、上司本人だけでなく、組織全体を弱体化させます。指導とハラスメントの違いを明確に理解し、経営方針や評価基準を整えることで、上司は安心して部下に注意できる環境をつくることが可能となります。
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●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。