近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2026年8月25日)
【事案の概要】
本件は、従業員7名の会社(Y社)に親会社から出向していた従業員(X)の妻が、労災保険法に基づく遺族補償給付等の不支給処分の取り消しを求めた事案です。Xは会社の歓送迎会に参加した後、研修生を送りながら会社に戻る途中、交通事故で死亡しました。
Y社は親会社の中国子会社から研修生を受け入れており、社長代行のC部長の発案で、研修生と従業員の親睦のための歓送迎会を福利厚生費で開催していました。当日、C部長から参加を打診されたXは「翌日が提出期限の資料を作成しなければならない」として断りましたが、C部長は「今日が最後だから、顔を出せるなら出してくれないか」と述べ、資料が未完成なら「終了後に一緒に作成する」と伝えました。Xは作業を中断して作業着のまま、社用車で会場に向かい、終了予定の30分前に参加しました(飲酒はしていません)。終了後、Xは本来C部長が送る予定だった研修生らを乗せてアパートに向かう途中、対向車と衝突して死亡しました。
【裁判所の判断】
一審(東京地判H26.4.14)と控訴審(東京高判H26.9.10)は、歓送迎会は定期的な行事ではなく、不参加による不利益もなく、費用を会社が負担したからといって「直ちに業務になるわけではない」として、従業員有志による私的な会合であり、参加も送迎も任意に行われたもので「事業主の支配下にあったとはいえない」と判断しました。これに対し最高裁は、原判決を破棄し、「業務上の死亡に当たる」と判断しました。判断のポイントは、次の3点です。
(1)参加の任意性
XはC部長から参加を強く求められ、資料提出期限も延期されず、歓送迎会終了後にはC部長も「資料作成に加わる」と伝えられていました。そのことから、参加しないわけにはいかない状況に置かれていました。また、Xは終了後に業務再開のため、会社に戻ることを余儀なくされ、会社からみれば「職務上一連の行動を要請していたものといえる」としました。
(2)歓送迎会の性質
歓送迎会は、社長代行の発案で開催され、その意向により従業員と研修生の全員が参加し、費用は会社の経費から支払われ、研修生の送迎も社用車で行われていました。そのことから、歓送迎会は研修の目的を達成するために会社が企画した行事の一環であり、「事業活動に密接に関連するもの」と評価しました。
(3)送迎行為
研修生の送迎は、もともとC部長が行う予定でした。帰社の経路から大きく逸脱するものでもないため、Xが代わって行ったことは会社から要請されていた「一連の行動の範囲内である」としました。
以上から、事業場外で酒も供された会合であり、送迎について明示的な指示がなかったことを考慮しても、Xは事故の際に「会社の支配下にあった」として、最高裁は業務起因性を認めました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/