<目次>
1.はじめに〜定時短縮で何が変わるのか?〜
2.【事例】運送業X社:毎日2時間の残業の正体
3.残業申告書の運用方法
1.はじめに〜定時短縮で何が変わるのか?〜
日本では「1日8時間働く」ことが常識とされていますが、これは1919年のILO第1号条約で定められた100年以上前の基準です。現在、日本企業の所定労働時間は平均7時間47分(【厚生労働省】2025年就労条件総合調査)です。長時間働けば成果が出る時代ではありません。
そこで着目したいのが、給与の総額を変えずに労働時間だけを短くする。つまり「時給単価を引き上げる」という発想です。1カ月の労働時間が160時間で月給25万円の場合、1日の労働時間を短縮すると時給は下記のようになります。
給与を1円も上げずに、時給が50円上がることになります。これは従業員にとっては実質的な賃上げであり、会社にとっては現金を使わない待遇改善です。しかも、限られた時間で成果を出すための業務の見直しが進み、生産性が上がっていきます。定時短縮は、労働時間を削る施策ではなく、利益と待遇を同時に改善する経営戦略なのです。
定時短縮の効果は、時給単価の引き上げだけではありません。以下、定時短縮を行うことの効果をまとめます。
実際に、求人票に「定時7時間」と書いた途端に応募が殺到し、面接でも「御社は定時が短いので応募しました」という声が多く聞かれた企業があります。離職理由の上位に「労働時間・休日等の労働条件が悪い」が挙げられていることを考えれば、労働時間は採用と定着の両方に効く施策です。
「大企業ならできるだろうけど、うちみたいな中小企業には無理だ」と思う経営者もいるかもしれません。ですが、むしろ大企業よりも機動力が高い中小企業のほうが向いています。
<中小企業が定時短縮に向いているメリット>
・意思決定が早い(経営者が決断すれば、その日から動ける)
・個人の顔が見える(従業員1人ひとりの事情が見えるので、効果を最大化できる)
・差別化の武器になる(給料では勝てなくても、「定時が短い」で優秀な人材を獲得できる)
・変化に強い(試行錯誤しやすく、うまくいかなければすぐに軌道修正できる)
なぜ「順番」が大事なのか?
定時短縮は、いきなり定時を短くする施策ではありません。段階を踏んで行わないと「結局残業が増えた」「意味がなかった」という結果になります。その理由は2つあります。
1つは、残業をコントロールできていない会社が定時だけを短くすると、終わらない仕事がそのまま残業に回り、労働時間が減らないまま残業代だけが増えるからです。もう1つは、業務の無駄を削らないまま時間だけを削ると、同じ仕事がより短い時間に押し込まれ、現場が疲弊するからです。
だからこそ、段階的進めていく必要があります。まず、労働時間の管理を見直します。次に、業務そのものを選別して時間を生み出し、そのうえで定時短縮に進みます。
■定時短縮を実現する3 STEP

この連載では、この3ステップを3社の事例で解説します。初回は「STEP�〇超蛤鏝坤好�ーム」で、残業を会社がコントロールするという土台の話です。
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●文/石井隆介(いしい りゅうすけ)
社会保険労務士法人湘南経営パートナーズ代表。社会保険労務士。中央大学商学部卒業後、信用金庫、労働金庫、金融機関一筋に15年勤務。主に中小企業の融資、退職者向けの個人の資産運用(個人年金、投資信託、国債)の営業、年金相談担当として長年業務を経験する。2017年社会保険労務士合格・登録。社労士事務所勤務を経て、2021年5月独立開業。現在、『労務トラブル再発予防の5つのステップ』をベースに中小企業の労務管理をサポート。専門誌への寄稿、セミナーの登壇なども行っている。