近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年3月26日)
【事案の概要】
本件は、無期転換権発生前の雇止めの有効性が問題となった事件です。
被控訴人(被告)は、自動車運送、鉄道利用運送・建設、特殊輸送等の物流事業全般および関連事業を事業内容とするN株式会社です。控訴人(原告)は、平成24年9月から派遣社員としてN社の支店管轄下のオイル配送センターにおいて就労を開始し、平成25年6月に事務員として被控訴人と有期雇用契約を締結しました。
最初の雇用契約書(H25.7.1〜H26.6.30)には、契約更新について「更新する場合があり得る」と記載され、加えて「当社における最初の雇用契約開始日から通算して5年を超えて更新することはない」と記載されていました。その後、3回の契約更新の際にも同様の記載がなされ、平成29年6月29日に4回目の更新がなされる際には「更新はしない」旨が記載されていました。
平成30年6月1日頃N社は原告に対し、同月30日をもって雇用契約期間満了とする旨を通知(いわゆる雇止め通知)しました。原告は雇止めの無効を主張して提訴しましたが、一審地裁判決は請求を棄却しました(横浜地裁川崎支部R3.3.30判決、労判1255号76頁)。被控訴人はこれを不服として控訴しましたが、本件高裁判決も控訴を棄却しました。
【裁判所の判断】
原告側は、本件雇止めが「無期転換権の発生を免れる目的である」などとして、公序良俗に違反し、無効である等の主張をしました。しかし、裁判所は全て認めませんでした。
雇止めの効力と合理的期待
裁判所は本件雇止めの効力を判断するに当たり、まず労契法19条2号(更新に対する合理的期待)について、「同号の要件に該当するか否かは、当該雇用の臨時性・常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待をもたせる使用者の言動の有無等の客観的事実を総合考慮して判断すべきである」としました。なお、合理的期待が認められる場合には、雇止めについて客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要になり、該当しない場合にはこれらは不要ということになります。
裁判所はその上で、本件の更新に対する合理的期待について、契約当初から雇用期間が5年を超えない条件であることは一義的に明確であり、原告もそれを「十分認識して雇用契約を締結している」としました。また、その後も更新条件に変更なく更新され、4回目の更新時に当初の予定どおりに更新しないものとされたことを主な理由に「合理的期待がない」としました(その他にも、原告の業務内容が専門的知識・能力を要するものではなく代替困難であったとはいえないこと、オイル配送センターの業務全体が特定の顧客からの受注に依存するものであったこと等も考慮しています)。
短期雇用の利用について
公序良俗違反の点については、労契法18条(無期転換権)が導入された後も5年を超えない限度で、有期労働契約により「短期雇用の労働力を利用する」ことは許容されています。その限度内で有期労働契約を締結し、雇止めしたことのみをもって、同条の趣旨に反する濫用的な有期労働契約の利用であるとか、同条を潜脱する行為であるなどと「評価されるものではない」としました。
この点は、使用者が有期雇用契約は通算5年を超えないこととし、雇用契約書に更新上限を設けることによって管理することで「無期転換権は発生しない」との方針を持っていたとしても変わることはないとしています。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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