近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年5月28日)
【事案の概要】
被告は航空機運行を目的とする会社Aで、原告BはA社の従業員です。A社には労働組合があり、Bは組合員です。
A社と労働組合との間の労働協約では、家族手当について、以前は女子社員についてのみ配偶者を扶養していることが要件となっていました。その後これをあらためて扶養の要件をなくし、本件訴訟時の規定は以下のような内容でした。
●A社の家族手当の規定
家族手当は下記に基づいて支給する。
(1)男子社員で正式の妻のある者 月額1万6500円
(2)女子社員で正式の夫のある者 月額1万6500円
(3)社員で実子又は実父母を扶養している者 その扶養者の各1名に対し月額7000円
原告Bは独身で、婚姻したことはありませんでした。そこでBは、A社が配偶者の収入金額等による支給制限を設けず、婚姻していることのみを要件として配偶者手当(配偶者に支給される家族手当)を支給していることは、労働基準法3条の信条又は社会的身分を理由とする差別的取扱いに当たり、憲法14条、24条に違反し、「公序良俗に反し違法・無効である」として、A社に損害賠償を求めました。
【裁判所の判断】
裁判所は、家族手当に関する労働協約締結の経緯(女子社員にのみ配偶者の扶養を要件としていたことをなくしたこと等)を認定した上で、そもそも家族手当は「個別的家族状況に応じて支給される性質のものである」としました。また、家族手当の果たしている社会経済的な一般的な役割に照らせば、家族手当は具体的労働に対する対価という性格を離れ、家族関係を保護する目的で支給される「生活扶助又は生計補助給付としての経済的性格を持つものである」と言えるとしました。
そして、具体的労働の対価として支給されるものでない手当について、どのような支給要件を定めるかについては、「画一的基準を定めざるを得ない」と判示しました。その上で下記4点の事実から総合すれば、本件配偶者手当支給規定は「独身者を不当に差別した不合理なものということはできない」としました。
�]�働協約の締結の経緯をみれば、その動機、目的及び手続に不当な点は認められない
��当初女子従業員についてのみ配偶者について扶養要件を付していたのを、男女平等を図るため、扶養要件を外したものであること
�O�組との交渉を重ねて、各協約の内容を形成してきたことの各事実が認められる
�な神�9年12月末日現在における労働省の調査によれば、本件配偶者手当支給規定と同様に配偶者の所得制限のない支給規定を設けている企業も、配偶者手当支給規定を有する企業のうちの半数に上っている事実が認められる
また、男女差別の点も認められないので、労働基準法3条、憲法14条、13条等に違反するとはいえず、民法90条に反し、「無効ということはできない」と判示しました。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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