プレゼンがうまくできたら、すごく素敵だと思いませんか?
もし、その技術を日常会話に応用できたら無敵だと思いませんか?
今回はそんなプレゼンのテクニックを日常生活にも持ち込んでしまおうという話です。
さて、みなさんは「プレゼンの天才」と聞いて、どなたをイメージされますか? iPhoneを開発した、あの人でしょうか? 劇場型と言われた、あの元総理でしょうか?
実は5歳にしてプレゼンの天才がいるんです。「ボーっと生きてんじゃねーよ!」が口癖のチコちゃんです。NHKで放送されているバラエティー番組「チコちゃんに叱られる!」に登場する5歳の少女のキャラクターです。
人間の赤ちゃんが生まれてすぐ歩けない理由
番組の中で、チコちゃんはいつも「ねぇねぇ岡村〜、この中で一番子育てが得意な素敵な大人って誰?」というフレーズで語りかけます。そして、番組の出演者たちに質問をぶつけます。
「なんで人間の赤ちゃんは生まれてすぐ歩けないの?」
たしかに子馬や子鹿などは生まれてすぐプルプルしながら立ち上がり、歩き始めますよね。進行役の岡村隆史さんが「ん〜、骨がぐにゃぐにゃだから?」と手探りで答えると、すかさずチコちゃんに「ボーッと生きてんじゃねーよ!」と叱られます。
その後、チコちゃんはちゃんと教えてくれます。
「人間の赤ちゃんが生まれてすぐ歩けないのは…お母さんを守るため〜」
え? お母さん「が」守るのではなくて、お母さん「を」守るため? どういうこと??
すると大学の教授が出てきて「さすがチコちゃん、5歳なのによく知ってるね〜」と褒めた後、解説に入ります。解説が終わるとナレーションで「人間の赤ちゃんが生まれてすぐ歩けないのはお母さんを守るため…でした」と締めくくるのです。
チコちゃんのテクニック解説
チコちゃんと出演者たちの一連のやり取りは、番組でいつも行われている定型的なものですが、実はマーケティングの技術が使われていることに気づきましたか?
使われているのは「AIDMA(アイドマ)」です。「AIDMA」とは「Attention(注意)→Interest(興味・関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)」という流れを作り、消費者の購買意欲をかき立て、購買に結び付けるマーケティングのフレームワーク(型)です。
チコちゃんは「この中で○○なのは誰?」と強引に巻き込むことによって、当事者意識を刺激し、「注意」を引き付けます。すかさず「なんで○○?」と質問して、「興味・関心」を掻き立てます。人間、不思議なもので質問されると、反射的に答えを考えてしまいます。答えを考えた時点で「自分事」になっているので、すでに巻き込まれているのです。
その後、あえて不完全な答えを教えることによって「なんで、なんで??」と知りたい「欲求」を刺激するのです。知りたい状態になってから大学教授や専門家が話すので、見ているこちら側は「ふんふん、なるほど」と聞いてしまうのです。想像してみてください。もし、最初から大学教授が出てきて「今日は人間の赤ちゃんが生まれてすぐ歩けない理由についてお話します」と話し始めたら、こんなに知りたいと思ったでしょうか?
知りたい状態になったところで情報が入ってくるので「記憶」するわけです。空腹にしておいて、料理を出すようなものです。「なるほど〜」と思った後は、「誰かに話してみよう」「来週も見てみよう」という「行動」につなげて、次の放送につなげているのです。さらに不完全な答えを最後にナレーションで繰り返すことにより、PREP法(Point:結論→Reason:理由→Example:具体例→Point:結論)という「伝わりやすい話法」まで駆使しているのです。
恐るべし5歳児!!!
●文/桑山元(くわやま げん)
研修講師・お笑い芸人・俳優。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。