第8回「倒産と老親」
働く個人にキャリアや仕事観を聞く「シゴトの風景」。今回は2つの問題を抱えている40歳男性の事例です。
●市村隆俊さん(仮名・40歳)
市村隆俊さんは、2つの問題を抱えている。1つは、勤務先の食品加工会社が倒産したことだ。
「業績不振が続いていて、社員同士でも“危ないんじゃないか”という話はよくしていました。倒産の2、3カ月前は給料が遅れることもあり、辞めていった人もいます。私も転職を考えました。でも、活動しても自分の希望に合った仕事が見つかりそうになかったので、断念しました」
市村さんは10年ほど前、妻の実家のある長野県に引っ越した。引っ越したのは同居のためではなく、都会を離れたかったからだ。
「私は生まれも育ちも東京で、スローライフへの憧れがありました。都会の喧騒から離れて、自然の豊かな土地で暮らしたいと思っていました。妻の実家が長野県で何度か行っているうちに気に入り、引っ越すことにしたんです」
スローライフとは、ライフスタイルに関する考え方の1つである。大量消費や効率優先ではなく、自然環境に配慮し、持続性を持ちながら、ゆとりのある生活を目指すというものだ。
「長野に引っ越してから、いろいろな仕事をしました。清掃員、飲食店スタッフ、トラック運転手などで、いずれもアルバイトです」
アルバイトという雇用形態は、市村さんが望んだものではない。正社員で働きたかったが、待遇面などでなかなか条件の合う仕事がなかったからである。だが、引っ越してから2年ほどたったころ、地元では老舗として知られる食品加工会社で正社員の求人が出た。市村さんは採用を勝ち取った。
「待遇も、条件も、問題ありませんでした。入社すると商品管理の部門に配属されたのですが、1年後に人事・総務部門に異動になりました」
人事・総務部門の仕事は多岐にわたっていた。切れた蛍光灯の交換から、採用まで何でもやった。
「社長の運転手みたいなこともやっていました。採用活動では学校に行って説明をしたり、面接を担当しました。うれしかったのは、一次面接を担当して入社した学生の1人が、私のことを覚えていてくれたことです。彼は、私と一緒に働きたいと思ったようで、それが入社した動機の1つだったようです」
人当たりがよく、明るい性格の市村さんは学生の評判が良く、社内でも評価を得ていた。仕事のおもしろさを感じていただけに、倒産はショックだった。
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●取材・文/三宅航太
株式会社アイデム人と仕事研究所 研究員。大学卒業後、出版社の営業・編集、編集プロダクション勤務を経て、2004年に株式会社アイデム入社。同社がWEBで発信するビジネスやマネジメントなどに役立つ情報記事の編集業務に従事する。人事労務関連ニュースなどの記事作成や数多くの企業ならびに働く人を取材。
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