近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年12月17日)
本件は残業代請求事件であり、「仮眠時間が労働時間に当たるかどうか」が問題となった事案です。被上告人は、不動産の管理受託及び管理受託に係る建築物の警備、設備運転保全等の業務を目的とする株式会社です。
上告人らは、被上告人に技術員として雇用された従業員です。被上告人が管理を受託した各ビルに配置され、ビル設備の監視、点検及び整備、ビル内巡回監視、ビルテナントの苦情処理、ビル工事の立会い、報告書作成等の業務に従事していました。
被上告人では従業員はシフト勤務をしており、泊り勤務においては仮眠時間が設定されていました。上告人らは仮眠時間中、仮眠室において監視又は故障対応が義務付けられており、警報が鳴る等した場合は直ちに所定の作業を行うこととされていました。ですが、そのような事態が生じない限り、睡眠をとってもよいことになっていました。
上告人らは、配属先のビルからの外出を原則として禁止され、仮眠室における在室や、電話の接受、警報に対応した必要な措置を執ること等が義務付けられ、飲酒も禁止されていました。仮眠時間中に警報が鳴った場合はビル内の監視室に異動し、警報の種類を確認し、警報の原因が存在する場所に赴き、警報の原因を除去する作業を行うなどの対応をしていました。
【裁判所の判断】
裁判所は、まず労基法上の労働時間について、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、実作業に従事していない仮眠時間(不活動仮眠時間)が労基法上の「労働時間に該当するか否か」は、労働者が不活動仮眠時間において「使用者の指揮命令下に置かれていたと評価することができるか否か」により、客観的に定まるとしました。
そして、不活動仮眠時間において、労働者が「実作業に従事していない」というだけでは、使用者の指揮命令下から「離脱しているということはできない」とし、労働からの解放が保障されていない場合は労基法上の「労働時間に当たる」としました。
その上で本件の仮眠時間について、上告人らは仮眠時間中、労働契約に基づく義務として仮眠室における待機と警報や電話等に対し、直ちに相当の対応をすることを義務付けられています。実作業が生じた場合に限られるとしても、それが生じることが皆無に等しいことや、実質的に上記のような義務付けがされていないと認められるような事情もないことから、本件仮眠時間は全体として労働からの解放が保障されているとは言えず、労基法上の「労働時間に当たる」としました。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/