近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2025年5月27日)
【事案の概要】
本件は、被告会社との間で「運送請負契約書」及び「業務委託契約書」を結び、いわゆるバイク便のバイシクルメッセンジャー(自転車で配送を行う者)として稼働していた原告らが、地位確認等を求めた事案です。原告らは被告会社から契約終了を告知されたことから、自分たちは労基法上の「労働者に該当する」として、本件の契約終了は解雇に当たる等の主張をしました。
【裁判所の判断】
本件の主な争点は、原告らが「労基法上の労働者に当たるか?」です。裁判所は、労基法上の「労働者に当たるかどうか」は契約内容及び労務提供の実態等を総合考慮して、「使用従属性※があるといえるかどうかにより判断する」とし、以下のような点を検討した上で、原告の労働者性を否定しました。
※使用従属性:労働者が、使用者に「使用され、労務に対して賃金が支払われているかどうか」ということ
(1)契約書の規定内容
契約書は配送業務の請負に関する約定であり、請負契約の裏付けになるとしています。
(2)使用従属性の有無
裁判所はまず、稼働日・稼働時間の決定については、基本的にメッセンジャー自らが自由に決定することができ、営業所に立ち寄って「指揮命令を受けることも義務付けられていなかった」としました。また、稼働日において業務の中断、早上がりが可能で、個別の配送依頼に対して拒否・辞退することも可能だったとしました。
このようにメッセンジャーの自由度は比較的高く、被告会社における一般的な社員とは相当に異なっており、「使用従属性を否定する有力な事情になる」としました。
一方、業務の流れ等についての手引きが作成されていたり、所定の研修を受けるものとされていたり、日々の配送業務についてメールによる配送指示や待機場所での待機が指示されていたりした事情があります。ですが、これらについては受託業務の内容が即時性の求められる配送業務といった特性から必要になるものであるとし、請負契約としての性質に反するものではなく、使用従属関係を認める事情として「積極的に評価すべきものとはいえない」としました。
また、時間的・場所的拘束については、一定程度の拘束性はあるが、業務の性質によることが大きく、使用従属性の観点では強い拘束性があるとはいえないとしました。業務の代替性についても、研修や手引き等による知見を蓄積していない第三者に対し、再委託することが禁止されていたからといって、直ちに「使用従属性を認めることにはならない」としました。
(3)報酬の労務対償性
稼働時間に依存・比例する出来高払い方式であるが、いかに稼働時間が長くとも、具体的な報酬額は、配送業務の受託回数によって左右されるのである。そのため、稼働時間に比例する傾向があったとしても、労働契約関係に特有なほど「労務対償性※が認められるものではない」としました。
※労務対償性:報酬が「仕事の完成ではなく、労働自体に対して支払われているかどうか」ということ
(4)事業者性・専属性
メッセンジャーは会社から荷物袋と名札が貸与されるほか、稼働にあたって使用する自転車や着衣、携帯電話機を自らの負担で用意します。また、これらの維持管理にかかる経費を負担した上、報酬については事業所得として「確定申告をしていた」とし、相当程度の「事業者性がある」としました。また、兼業が許されており、「専属性があるとはいえない」としました。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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