厚生労働省発表の「令和5年労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間にメンタルヘルスの不調によって連続して1カ月以上休業した労働者がいた事業所の割合は10.4%、退職した労働者がいた事業所の割合は6.4%でした。これらのデータから、メンタル不調による休職や退職に至る労働者が少なくないことが示唆されます。今回は、うつ病による休職から職場復帰を果たした部下に対する対応を取り上げます。
■今回の事例
ある企業のA課長(40代女性)は、うつ病からの復職を希望した部下のBさん(20代男性)を「本人が大丈夫だと言っているから」として、従来と同じ業務内容・負荷での即時復帰を認めることにしました。ですが、数週間後、Bさんは再び体調を崩して再休職することになりました。
A課長の判断は一見、本人の意思を尊重した対応のように見えます。ですが、後の面談でBさんは復帰当初から午前中に眠気があり、「このままで大丈夫なのか?」と不安を抱えていたことが分かりました。また、Bさんは「自分では、もっと仕事ができると思っていた」「不安を感じていたが、誰にも相談できなかった」と話しました。
■解説
今回の事例は「本人の意思=復職準備完了」と単純に受け取り、職場としての支援体制が不十分だったことが再休職につながった原因と考えられます。では、どのような対応が望ましかったのでしょうか?
職場復帰は“個人任せにしない” チームで支える姿勢を
うつ病は復職できる状態でも完治しているわけではなく、回復途中の状態であることが一般的です。そのため、復職にあたっては人事部、産業医、上司、同僚との連携によるチームでの支援が不可欠です。
例えば、Bさんが感じていた「午前中の眠気」は薬の副作用かもしれませんし、うつ病の症状の一部かもしれません。対応について、マネジャーが単独で判断することは困難です。マネジャーには「本人の気持ちを受け止めつつ、関係者と連携して、無理のない復職環境を整える調整役」としての役割が求められます。具体的に求められる対応として、以下のことが挙げられます。
・復職前面談で、本人の不安や希望を丁寧に確認する
・医師の診断書の内容を確認し、業務上の配慮点を把握する
・人事部や産業医と「どの程度の業務なら可能か?」をすり合わせる
・復職する人の同僚への配慮(業務分担の調整、必要な情報の共有など)を行う
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●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。