訪問介護の現場では、利用者との信頼関係づくりが仕事の質を大きく左右します。しかし、信頼関係を作るために善かれと思ってとった行動が、ときに仕事のルールから外れてしまうことがあります。善意とルールを「どう両立させるか?」は、すべての介護現場に共通する永遠の課題と言えるでしょう。今回は、善意から利用者のペットに餌をやっていた訪問介護員のケースを通して、善意とルールのバランスについて考えてみましょう。
■今回の事例
訪問介護員のAさん(50代女性)が長年担当している利用者Bさん(80代女性)の家では小型犬を飼っています。Aさんは訪問のたびに「この子も家族ですから」と言いながら、犬にドッグフードをあげていました。Bさんも「ありがとうね、この子もあなたになついているのよ」とうれしそうに話し、良好な関係が続いていました。
ところが、ある利用者からAさんの勤める訪問介護ステーションに苦情が寄せられました。訪問介護員から動物のにおいがしたり、服に犬の毛がついていたりするというのです。
また、BさんはAさん以外の介護員が来たときに、飼い犬に「餌をあげてほしい」と頼むようになりました。訪問介護の対象ではない行為なので断るとBさんは不機嫌になり、介護員が心理的に萎縮してしまうというカスタマーハラスメントに発展しかねない状況になっていました。Aさんの勤めるステーションの管理者であるCさん(40代女性)はどう対応したらよいのか、困っています。
■解説
自ら進んでBさんの飼い犬に餌をやっていたAさんに悪意はなく、「利用者の方の喜ぶ顔を見たい」という善意からの行動でした。しかし、介護保険の訪問介護では「ペットの世話」は対象外の行為です。これを容認すると業務範囲の逸脱や、他の職員との不公平感、さらには利用者側の誤解(=やってもらえるのが当然)を生む危険があります。
介護現場では善意とルールの狭間で揺れることが多く、現場の判断だけでは解決できない問題が少なくありません。だからこそ、管理者には方針を明確にすることと、個人の善意に頼らない運営体制づくりが求められます。
介護保険適用外のサービスであることを明確に伝える
管理者が最初にすべきことは、ペットの世話は介護保険の対象外の業務であることを、AさんとBさんに丁寧に伝えることです。
介護員のAさんには他の介護員に迷惑がかかることを伝え、守らなければならないルールであることを理解してもらいましょう。ルールを守っている他の介護員との関係に亀裂が入る可能性もあるので、注意が必要です。
利用者のBさんには「お気持ちはお察ししますが、制度上できないことになっています」と説明した上で、「もし餌やりを希望される場合は、ペットシッターなどの自費サービスの利用をご検討ください」と代替手段を提示します。“断る”のではなく、“提案する”という対応です。
●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。