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これからの人材活用（2012年4月～2013年3月）

これからの人材活用（2012年4月～2013年3月）一覧
第12回　事例研究／認知症患者入居10年の変化～介護施設の制度疲労と相思相愛～

第12回　事例研究／認知症患者入居10年の変化～介護施設の制度疲労と相思相愛～

ここ１年くらいの間に「人が足りない」という声を、多様な業種・業態で、聞くようになりました。つまり、「募集をしても、応募がない」。しかも「せっかく雇い入れても、すぐ辞めてしまう」の、悪循環。なぜか。ここに明確な解はありません。しかし、今後に向けた、考え方のヒントくらいは、出せるのではないか。――そんな思いから、執筆しました（アイデム人と仕事研究所　所長　平田未緒）。

経済産業省産業構造審議会真産業構造部会は、2012年6月に、報告書『経済社会ビジョン　「成熟」と「多様性」を力に～価格競争から価値創造経済へ～』を発表しました。

　ここには「成長産業が必要とする就業者数」が、合計で約1000万人規模と試算されています。また、これを補うため、2020年に女性約300万人規模、高齢者については約150万人規模の就労拡大が必要としています。

　ここでいう成長産業には、医療介護が含まれます。実際、今後高齢化が進めば、「自分一人の力では生きられない」人たちが増えるのは当然で、生命の営みを手助けする仕事が、今以上に需要が高まるのは、明らかでしょう。

　でも、実際、目算どおりに、就業者数は増えるでしょうか。新たな労働力が生まれたとして、あるいは既存の労働力は、スムーズに「成長産業」に、移動していくものでしょうか。

　こんなことを書くのは、介護業界の方々から「人が足りない」という声を、とても多く聞くからです。しかも、今回、あるグループホームを取材して、介護業界に「人が足りない」状況は、さまざまな環境変化が絡み合い、生じていることを、学びました。

　実は、介護業界にとどまらず、ここ１年くらいの間に「人が足りない」という声を、小売店、飲食店、学習塾、物流業、食品製造業・・など、多様な業種・業態で、聞くようになりました。

　つまり、「募集をしても、応募がない」。しかも「せっかく雇い入れても、すぐ辞めてしまう」の、悪循環。最後は、嘆息しながら「働き手はいったい、どこへ行ってしまったのか」が、お決まりです。

　求人広告業界にいるからといって、ここに解が出せるわけではありません。しかし、今後に向けた、考え方のヒントくらいは、出せるのではないか。――そんな思いから、本稿を執筆します。
　
　まずはグループホームの事例を紹介します。その後、ここから感じたことを、書きました。

認知症患者を受け入れ10年のグループホーム
　
　グループホームは、主に認知症の高齢者を対象とした、共同生活型介護施設。一般の住宅に似た施設に入居してもらい、地域社会に溶け込むような生活をサポートすることで、認知症の進行を抑えつつ介護する、というものだ。
　
　「グループホームさくら」も2003年、そんな温かな介護を志し、福岡県筑紫郡那珂川町の住宅街にオープンした。

　　同施設の管理者、山﨑千惠子さん（写真）は、人材についてこう話す。

　「この仕事は、合う人と合わない人に、極端に分かれるように思います。こちらが『大丈夫かな、どうかな』と不安に思いながら採用したスタッフなど、勤務二日目にもう、来なくなってしまったり。１週間、あるいは１カ月で辞めていかれる方もあり、そんな方に対しては、他のスタッフも『やっぱりね』という反応です」

　スタッフの応対は、ご入居者の状態に、大きな影響を及ぼしてくる。「その時間だけ、ココにいて、言われたことだけをこなす」姿勢は、ご入居者に伝わってしまう。同じことを語りかけても、Aさんなら受け入れてもらえても、Bさんでは激怒されてしまうこともあるという。

　「もちろん、人対人ですから、相性もあります。それでも、誰にでも務まるわけではありません。笑顔のいい方、ほっとするような話し方をされる方が、やはり合いますね。声がキンキンしていたり、早口だったり、行動がバタバタしているような方は、仕事への姿勢以前の個性として、不向きと言えると思います。お客さまであるご入居者さんが、いらついてしまいますので」

定着率が高い理由

　勤務開始後2日目や、1週間など短期で辞めていくことは、働く側・雇う側双方にとって、不幸なこと。だから、「さくら」でも面接には力を入れる。ゆっくりと時間をかけ、仕事の説明をし、また、相手の表情や行動を、しっかりと見る。

　そのかいあってか、「そもそも合わなかった人」が抜けていく最初の１カ月を超えて勤務する人の定着率は、とてもよい。実際、昼夜365日シフト勤務の正職員は、10人中4人までが、施設のオープン前後に採用された人なのだという。他に、日勤だけのパートが8人、夜勤専門のパートが１人在籍するが「皆、落ち着いて勤務してくれている」と山﨑さんはにこやかに説明する。

　とはいえ、介護施設は、一般的には「定着」に悩む場合が圧倒的。「さくら」には、何か秘策でもあるのだろうか。

　「んー・・・なんでしょう。強いて言えば、管理しすぎないということでしょうか。もちろん、命に関わる仕事ですから、ルールはしっかりしています。でも、そのルールにのっとっていれば、あとは個々人の個性を活かしながら、ある程度自由裁量で介護してもらえるようにしています」

　　例えば、ご入居者に対する語りかけ。どんなに親しくなっても「○○しましょうか？」など堅すぎないながらも、敬語を崩さないスタッフがいる半面、いわば友達感覚で、ものすごくフレンドリーな言葉や態度で接するスタッフもいたりする。これについて、山﨑さんは、「よほど目につき、『これはまずい』と思わない限り、注意はしない」ようにしているという。

　「あとは、ご入居者のご家族に対する接し方、ですね。大切な肉親をお預かりしているのですから、不信感や不安感を抱かせてしまうような対応は、困ります。それも、同じご家族でもご入居者のお連れ合いでしたら、それなりのご年齢の方への対応となります。一方、お子さん世代に対しては、もう少し肩の力が抜けた話し方のほうが、受け入れていただきやすかったりします。こうした接し方や言葉遣い、もちろんサービスの質に関しても、スタッフの誰が担当しても一定レベルに達している必要があり、人材育成は常に意識しています」

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取材・文・写真／平田未緒
株式会社アイデム　人と仕事研究所所長。早稲田大学卒業後、情報誌記者・編集者として勤務。その後1996年に総合求人広告企業株式会社アイデムに入社、ＣＳ、ES、人事制度、マネジメント、能力開発、パート・アルバイトの戦力化などをテーマに、数多くの企業ならびに働く人を取材。2009年より現職。大学講師、社会保障審議会委員等各種公的委員も務める。著書に『パート・アルバイトの活かし方・育て方～「相思相愛を実現する10ステップマネジメント～』（PHP研究所）等があるほか、各種専門誌に執筆、ならびに講演も多数。