相次ぐ大手企業の大規模リストラ
先月、経営再建中の日産自動車が約2万人の人員削減を発表しました。下がり続ける業績に対して有効な施策を打てず、抜本的な改革が行われることになったようです。改革は人員削減だけでなく、国内外の工場閉鎖も検討されます。工場のある地域経済にも影響を与える可能性があり、波紋が広がっています。
大規模な人員削減はパナソニックも発表し、国内外で1万人の削減を打ち出しました。ですが、パナソニックは業績不振に陥っているわけではなく、黒字下での施策です。目的は経営構造改革で、人員の適正化による収益の改善を見込んでいるようです。現在、パナソニック以外にもマツダ、コニカミノルタなど、黒字でも人員削減を進める企業があるようです。アメリカの関税政策の影響や世界経済の減速などにより、今後の業績悪化を見込んだ予防措置とも考えられます。
早期・希望退職の募集人員は前年同期比2倍
東京商工リサーチによると、2024年に早期・希望退職を募集した上場企業は前年比39%増の57社(前年41社)で、そのうち直近決算が黒字の企業は34社でした。募集人数は1万9人(同3,161人)で、前年の3倍です。好業績でも早期退職を募る黒字リストラの背景には、少子高齢化の進行による人口減少社会への対応が考えられます。経営体力のあるうちに社員の年齢構成や配置などを見直し、組織の新陳代謝を図る狙いがあります。
今年に入ってからの東京商工リサーチの集計(2025年1月〜5月15日)では、早期・希望退職を募集した企業は19社となっています。前年同期より8社減りましたが、大きな募集が相次いだことで募集人員は8,711人(前年同期4,654人)となり、前年同期の約2倍です。ちなみに2000年以降の募集人員の最多は2009年の2万人超で、2008年に起きたリーマンショックに影響によるものと考えられます。
整理解雇の4要件
早期・希望退職の募集は人員削減施策の1つで、最終手段として解雇があります。解雇は、労働者にとって社会的にも、経済的にも重大な影響を与えます。そのため、法律で厳しく規制されています(労働契約法16条)。 端的に言えば、企業の一方的な都合や不合理な理由による解雇は認めないということです。
企業が不況や経営不振などにより、人件費を削減するために行う解雇のことを「整理解雇」と言います。整理解雇は企業の事情によるものなので「整理解雇が有効かどうか?」の判断基準は厳しく、下記の4要件を満たす必要があります。
・会社の維持や存続のために人員整理が必要であること(人員削減の必要性)
・希望退職の募集、一時帰休などの解雇を避ける努力をしたこと(解雇回避の努力)
・人員選定の基準と人選が、合理的で公平であること(人選の合理性)
・労働者に説明し、納得を得る努力をしたこと(解雇手続の妥当性)
具体的な手順は、まず残業を抑制したり、新規採用をやめたり、配転・出向などを行ったりして、人件費を抑える施策を実施します。それでも十分でなかったら希望退職 を募ったり、一時帰休を行います。その上で、さらに踏み込んだ措置が必要になったときに「整理解雇」という選択肢が出てきます。企業が解雇をする上で、最も大切なのは正当性です。「解雇に相当する理由なのかどうか」が問われます。
●文/三宅航太
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部 データリサーチチーム所属。
大学卒業後、出版社に入社。書店営業部を経て、編集部に異動。書籍の企画・制作・進行・ライティングなど、編集業務全般に従事する。同社を退社後、フリーランス編集者、編集プロダクション勤務を経て、株式会社アイデム入社。同社がWebサイトで発信する人の「採用・定着・戦力化」に関するコンテンツの企画・編集業務を担う。働き方に関するニュースの考察や労働法の解説、取材、企業事例など、さまざまな記事コンテンツを作成している。