7月、大手ゼネコンの大成建設は転勤に関する取り組みをスタートさせました。転居を伴う転勤を回避できる制度(最大5年)の運用と、転勤に関する手当の引き上げです。背景の1つに、転勤を理由とした退職者が増えていることがあるようです。
近年、大手企業では転勤を廃止したり、見直したりするところが増えています。具体的には、社員が転勤の可否を選べたり、転勤に関する手当を手厚くしたり、転勤可能なエリアを選べたり、テレワークの活用で転居のない転勤にしたりしています。
転勤の廃止や見直しの背景は、2つ考えられます。1つは、深刻化する人手不足への対応です。企業の人材確保施策として、社員の同意のない転勤を減らしていくという動きです。若い世代は転勤への抵抗感が大きく、転勤の有無は入社動機にも大きく影響するという調査結果もあります(株式会社ペンマーク/【Z世代実態調査】大学生の7割、企業選びで「転勤の有無を重視」)。もう1つは、リモートワークの普及や家庭事情の多様化など、社会環境の変化です。
転勤は、生活やキャリアに影響を与える
会社は社員との労働契約に基づき、社員の配置や処遇などを決定する人事権を持ちます。そして就業規則などに配置転換に関する定めがあるなら、転勤を命じることができます。転勤は命じられた人の生活やキャリアに影響を与えます。ですので、場合によっては人事権の濫用として違法・無効と判断されることもあります。命令が「権利の濫用にあたるかどうか」は、以下の要素などを考慮して判断されます。
・就業規則への明記
・業務上の必要性
・不当な動機や目的の有無
・労働者の不利益性
労働者の不利益性については、例えば、転勤で単身赴任や子供の転校が避けられなかったり、保育園の送り迎えに支障が生じたりする程度であれば、転勤は「業務命令として有効」と判断される傾向にあります。一方、転勤を命じられた人が育児や介護をしている場合、会社は本人の言い分を聞いたり、事情を考慮したりして、慎重に検討したほうがよいと言えます。
労働者に転勤を拒否されたら
次に、業務命令という面から見ていきます。会社は労働契約を結んだ労働者に、業務命令を出すことができます。業務命令は、労働契約で合意されている内容の範囲内で、業務上の必要性や合理性が認められていれば、労働者は原則従わなければなりません。転勤も業務命令であり、労働者は基本的には拒否できません。
<業務命令の種類>
・事務作業や営業活動などの日常業務に関するもの
・出張や残業、休日出勤などを命じるもの
・職種の変更や配置転換などの人事に関するもの
労働者が転勤を拒否した場合、会社は業務命令違反や服務規程違反を問うことが考えられます。ですが、今は会社の都合だけを優先する時代ではなくなってきています。これからの企業には、労働者が納得して転勤を受けられるようなプロセスを整備していくことが求められています。そのためには、まず自社に「転勤は必要なのか?」を根本から問い直す必要があるでしょう。その上で、転勤が必要不可欠なのであれば、会社と労働者双方にとってよりよい方法を模索していくことが大切です。
※参考
●文/三宅航太
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部 データリサーチチーム所属。
大学卒業後、出版社に入社。書店営業部を経て、編集部に異動。書籍の企画・制作・進行・ライティングなど、編集業務全般に従事する。同社を退社後、フリーランス編集者、編集プロダクション勤務を経て、株式会社アイデム入社。同社がWebサイトで発信する人の「採用・定着・戦力化」に関するコンテンツの企画・編集業務を担う。働き方に関するニュースの考察や労働法の解説、取材、企業事例など、さまざまな記事コンテンツを作成している。