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個人の働き方や企業の人事労務、行政の労働施策など、労働に関するニュースを取り上げ、課題の解説や考察、所感などをつづります。(2022年9月8日)
2022年に入り、4月に改正育児介護休業法の施行と女性活躍推進法等の一部改正、さらに改正育児介護休業法が10月にも段階的に施行されるため、関係リーフレットに目を通す機会が増えています。そうした法律の中には、企業に「義務」を課しているものの、条文によっては「努力義務」に留まっているものがあるため、取り扱いに戸惑うこともあるのでないでしょうか。今回は「努力義務規定」の位置付けと対応について、取り上げます。
(1)努力義務規定とは?
条文の最後が「○○するよう努めなければならない」、「〇〇に努めるものとする」と規定されているものについて、企業は努力する義務があります。しかし、努力することについての具体的な評価基準があるわけではありません。努力義務規定に対して「どのレベルを目指すのか?」「どのように対応するのか?」など、対応の仕方は会社の判断次第です。
言い換えれば、努力義務規定は「努力する」という会社の自発的な行為を促したり、期待するものと言えます。また、法的拘束力や刑事罰や行政罰の制裁がなく、実施した(努力した)結果の報告を求められることもありません。
(2)努力義務規定の種類
努力義務規定の種類は、「訓示的な規定」と「自発的に具体的な努力行為する規定」の2つがあります。前者は、法の基本理念や趣旨、目的の実現に向けた積極的な努力を促す場合です。一方、後者は、立法化の合意に至らず、あるいは立法化が時期尚早であることから努力義務規定に留められた場合です。
なお、世論の規制への意識や要請が高まり、法規制の必要性が出た場合は、義務化されることがある点に留意が必要です。例えば、パワハラ防止法は改正法施行(2020年6月1日)により、パワハラに対する雇用管理上の措置が「努力義務から義務へ」と変更されました(中小企業は2022年4月1日から義務規定に変更)。
(3)努力義務違反で賠償を命じられる
努力義務規定は、(1)に記載したとおり法的拘束力、刑事罰や行政罰の制裁がありませんが、「義務じゃないから対応しなくても構わない」と捉えるのは問題があります。現状を放置したまま対応を怠ったり、努力義務とは正反対の措置や行為をとっている場合は、努力義務違反によって被害を受けた第三者から損害賠償請求を受けたり、監督官庁から行政指導を受けたりする可能性があります。
実際に、努力義務違反で会社が賠償を命じられた判例があります。例えば、女性の配置・昇進の平等扱いが男女雇用機会均等法で努力義務だった時代の昭和シェル石油裁判です。東京高裁は2007年、均等法の努力義務を「単なる訓示規定でなく、実効性のある規定であることは均等法自体が予定する」と解釈。会社が法の目標を達成する努力を「なんら行わない場合」などに不法行為の成立を認めて約2,051万円の賠償を命じました。(最高裁は2009年1月、高裁判決を確定)。
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●文/田代英治(たしろ えいじ)
株式会社田代コンサルティング代表取締役、社会保険労務士
大学卒業後、川崎汽船株式会社入社。人事部にて人事制度改革・教育体系の抜本的改革を推進。2005年同社を退職し、2006年に人事労務関連のコンサルティングを行う株式会社田代コンサルティングを設立。企業の労務管理の指導や人事制度の構築・運用、人材教育などに取り組む。著書に『企業労働法実務入門【改訂版】』(共著/日本リーダーズ協会)、『人事・総務・経理マンの年収を3倍にする独立術』(幻冬舎新書)、専門誌への寄稿など執筆実績多数。
https://tashiro-consulting.co.jp/
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