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近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2022年10月25日)
【事案の概要】
原告の夫であるAは、勤務先の会社主催の納会で飲酒し、急性アルコール中毒を発症するなどして亡くなりました。原告は、Aの死亡が業務上の事由によるものであるとして労災を申請しましたが、不支給とされました。そこで原告は、国を相手に不支給処分の取り消しを求めて提訴しました。
【裁判所の判断】
労災が認められるためには「業務遂行性」と「業務起因性」が必要になります。「業務遂行性」とは、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にあることを言います。業務を行っている場合だけでなく、事業主の「支配下にある」と評価される場合も含まれます。
裁判所は本件の「業務遂行性」について次のように判断しました。本件の納会は、仕事納めの日の社内清掃後における1時間ないし2時間程度の懇親、慰労の趣旨で、任意参加で行われたものです。裁判所は、会社代表者から「よほどの事情がない限り参加するように」と言われていたものの、参加を強制されていたとまでは言えないとしました。
しかしながら、納会は、会社内において会社が主催し、会社の費用全額負担の下、飲食物を用意した上で、所定労働時間を含む時間帯に開催されたものでした。代表者を始め従業員全員が参加し、所定労働時間の勤務を前提とした「賃金が支払われている」といった事実から、業務の延長線として会社の支配下にあったとして「業務遂行性」を肯定しました。
一方、「業務起因性」とは、業務に内在する危険性が現実化したと評価されることを言います。要するに、普段は表面上見えなかったとしても、元々危険な状態が起こる可能性があり、実際にそれが現実化した場合です。
裁判所は本件の「業務起因性」について、Aの飲酒行為が納会の目的(懇親、慰労)を逸脱した過度の態様によると認められる場合には「業務起因性」が認められないとしました。つまり、そのような過度の飲酒は懇親、慰労のための納会にひそむ危険性が現実化したものではなく、労働者本人が「自ら危険な行為を行った」と評価されるということです。本件ではAがほぼ1人で日本酒一升を飲み切り、酩酊状態になっていたこと等から、裁判所は本件において「業務起因性」は認められないとしました。
結論としては、「労災不支給は違法ではない」として、原告の請求は棄却されました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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