腰痛に悩んでいる人は少なくない。彼らは治療を受け、コルセットをして毎日痛みと闘っている。中には腰痛との闘いに疲れ果ててしまう人もいる。
喜べない部下の登場
40歳の直哉は、電気機器関連の中小企業で経理の仕事をしている。経営は安定しており、今まで伸び伸びと仕事をやってきた。仕事帰りには、妻や子供たちが好きなスイーツを買って帰る優しいパパでもある。そんな彼に、最近新しい部下ができた。仕事が早く、経理データを分析して社長に進言することもできる優れた人材だった。
直哉は腰の椎間板ヘルニアの持病を抱えていて、痛みが強いときや治療のために時折会社を休んでいた。仕事はこなしていたが、会社は何かあったときのために新しい人員を補充することにしたのだ。
直哉は、仕事のできる新人が入ったことで、会社から戦力外通告を受けたような気分になっていた。転職も考えたが、自信がなかった。このままでは異動を命じられたり、減給されてしまうかもしれない。最近は腰痛に加えて不眠も続き、うつ気分になって会社に行く気力がなくなってきた。
結婚への不安
25歳の恵は保育士をしている。保育士は子供の頃からの夢で、仕事は毎日が楽しく、あっという間に1日が終わってしまう。そんな彼女に最近、彼氏ができた。結婚したら子供を3人産みたいと思っていた。しかし最近、仕事で腰を痛め、整形外科で椎間板ヘルニアと診断された。職場の先輩に相談すると「できるだけ抱っこはやめて、誰かを呼んで」と言ってくれ、フォローしてもらえることになった。
でも、少ない人員で回しているので、頼ってばかりはいられなかった。そのため、無理をして子供を抱っこして痛みが悪化し、休むという悪循環に陥った。恵は保育士としての将来が不安になったことに加え、知り合った彼氏にも腰痛があることで迷惑をかけていた。恵は「このままでは結婚はおろか、子供を産むこともできない」と思うようになり、将来を悲観して不安でたまらなくなった。
<ストレス心理コンサルティング>
直哉の問題は仕事のスキル不足と腰痛、メンタルヘルスの問題が複雑に絡んでいる。恵の場合も腰痛、結婚や将来の不安、そして仕事がある。問題は一度に解決できないので、段階を踏んでいく必要がある。まず腰痛を治療し、次に不安感や抑うつ感の軽減、最後はライフプランやキャリアプランの検討である。
直哉の問題
直哉は今まで気楽に仕事をしながら趣味に生きると決めていたが、有能な部下が現れ、状況が変わってしまった。かつて税理士を目指していた直哉は3回受験して不合格になり、今の会社に就職した。だから、仕事のできる部下に劣等感を感じ、将来を悲観してうつ状態になった。
また、直哉は男性更年期障害になっていることに気づいていなかった。30代前半から性欲が低下し、男性ホルモンの低下を感じていたという。私は「男性更年期障害を専門にしている泌尿器科医を受診し、適切な治療を受けるといいかもしれない」と助言した。
椎間板ヘルニアの治療は、できれば複数の専門医に相談することだ。治療方法はさまざまで、手術を受ける場合は情報を集めて判断する。自分なりのプランをつくり、無理をせずに少しずつ治療やリハビリを進めていくことだ。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。