「リベンジ退職(Revenge Quitting)」という言葉を聞いたことがありますか?
自分が勤める会社に不満を持つ人が、仕返しのために意図的に退職することです。具体的には繁忙期に突然退職を表明したり、引き継ぎの資料を作らなかったり、退職時に会社の情報を持ち出したりすることで、人事労務関連の新ワードとして注目されています。
リベンジ退職を最初に発信したのはアメリカの経済誌『フォーブス』で、2025年に入ってアメリカで急増しているようです。背景には、自分に対する上司や会社の対応、ハラスメント、処遇への不満などが考えられます。
退職に関する法規定
退職は、法律でどのように扱われているのでしょうか。以下、退職に関する法的なポイントをみていきます。
(1)意思表示について
退職は、原則として労働者の自由です。いつでも申し出ることができます。ですが、労働者が会社と結んだ契約期間によって、変わるところがあります。
・期間の定めのない労働契約(無期雇用:主に正社員)
退職する2週間前に会社に意思を伝えれば、2週間後に契約は終了して退職となります。その際、会社の承認を得なかったとしても退職できます。
・期間の定めのある労働契約(有期雇用:パート・アルバイト・契約社員など)
契約期間が定められている場合、原則として契約期間中の退職はできません。契約期間中の退職が認められるのは、やむを得ない理由があるときです。例えば、会社が賃金を支払っていなかったり、病気やケガで働くのが難しくなったり、家族を介護しなければならなくなったりすることです。
なお、契約期間が1年を超える場合、契約初日から1年を過ぎたら、いつでも退職できます(退職の意思は2週間前に伝える必要があります)。ただし、厚労相が定める基準に該当する専門的知識を有する労働者及び60歳以上の労働者には適用されません。
(2)退職予定者の有休
有給休暇は、労働者が会社に退職の意思を伝えてからでも使用できます。また、退職時は、会社が労働者の有休取得の時期をずらす「時季変更権」を行使できません。例えば、有休を取得したら退職日までに引き継ぎが終わらないから「取得を認めない」ということはできません。
(3)損害賠償の請求
退職者が引き継ぎをしないで辞めたことで生じた会社の損害を立証するのは、かなり難しいと言えます。立証とは、退職者がしっかり引き継ぎをしていれば、会社は「このような損害を受けなかった」「このような利益を得られたはずだ」を証明することです。
まず、引き継ぎ不足による損害は、退職者だけの責任とは言い切れない部分があります。例えば、退職者が引き継ぎを行わないことが予測できたなら、会社には対策を立てることが求められます。また、引き継ぎを「十分に行ったかどうか」は主観的なものです。会社は「不十分だった」と感じても、引き継いだ本人は「十分だった」という認識かもしれません。損害と引き継ぎをしなかったことについて、因果関係を特定するのは簡単ではありません。
退職者と良好な関係を築く
退職に関する法規定をみてきましたが、原則として退職は労働者の自由です。リベンジ退職を防ぐために、規則やルールを設けても限界があります。就業規則に「退職の30日前までに退職届を提出する」といった規定を設けることは一般的ですが、これを破っても退職を認めないということはできません。
退職の意思表明をした人をサポートする「オフボーディング」という施策があります。実際に退職するまでの間、良好な関係を築きながら快く送り出すことです。目的は、自社に対する不満や課題を聞き出して定着率の向上に生かしたり、アルムナイネットワーク(退職者たちのコミュニティー)への誘導につなげたりすることなどがあります。退職者は採用候補者やビジネスパートナー、顧客などに発展する可能性を秘めており、近年、退職者との関係づくりに取り組む企業が増えています。
※参考
●文/三宅航太
株式会社アイデム メディアソリューション事業本部 データリサーチチーム所属。
大学卒業後、出版社に入社。書店営業部を経て、編集部に異動。書籍の企画・制作・進行・ライティングなど、編集業務全般に従事する。同社を退社後、フリーランス編集者、編集プロダクション勤務を経て、株式会社アイデム入社。同社がWebサイトで発信する人の「採用・定着・戦力化」に関するコンテンツの企画・編集業務を担う。働き方に関するニュースの考察や労働法の解説、取材、企業事例など、さまざまな記事コンテンツを作成している。