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近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点や予防のポイントなどを解説します。(2022年6月27日)
【事案の概要】
タクシー会社に就職し、会社から教習所の授業料や就職支度金の支出を受け、その後これらの金銭の返還免除の条件を満たす前に退職した元従業員2名に対し、会社がこれらの金銭の「返還を求めることができるか?」が争われた事案です。
求人広告には「2種免許取得費会社負担」「教習期間中日給1万支給」「支度金20万円住宅提供可」などと記載されていました。面接担当官が、募集要項に基づいて一通り待遇の説明を行いましたが、同要項を交付しませんでした。
募集要項には、(1)免許取得のための授業料・受験料等は会社が立て替えること、(2)教習費として日額1万円を支給すること、(3)就職支度金として20万円を4分割で支給すること、(4)自動車学校入校時までに金銭消費貸借契約を締結し、2種免許取得にかかった費用(学校費用・教習費)および支度金は、タクシー乗務員として800日の乗務日数を満たしたときは返済義務を免除すること等が記載されていました。その後、元従業員2名との間で実際に金銭消費貸借契約を締結しました。
【裁判所の判断】
本件判決は、教習費と就職支度金については労基法16条に違反するとしました。そして、教習所の授業料と交通費については違反しないので、元従業員らは「返済義務を負う」としました。
まず教習費、就職支度金については、求人広告に貸付金との記載はなく、賃金と誤解されかねないものです。元従業員らが「正確に理解できるように説明したとは認められない」ことなどを理由に、これらは賃金的性格を有するとし、貸付金と主張することは「信義則上も許されない」としました。
自動車教習所の授業料、交通費については、教習を受けることは従業員の自由意思に委ねられ、教習中は会社の指揮監督下にもないので業務とはいえません。よって、2種免許の取得は従業員らの利益となるので本来元従業員らが負担すべきものであり、「2種免許取得費会社負担」は一旦会社が負担するという意味では虚偽とまでいえないとし、「金銭消費貸借契約が成立した」としました。また、労基法16条違反の主張も認められませんでした。
【解説】
採用において「人を多く集めたい」「よい人材を確保したい」という思いから、本件のような資格取得費用の負担や入社時の特別ボーナスなどの好待遇を打ち出すことがあります。ですが、このような経済的なメリットを与えたにもかかわらず、入社後期間を置かずに退職してしまった場合、会社としては裏切られたという感情から、そのためにかけた費用を返してほしいと思う気持ちは分からなくありません。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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