採用選考でやってはいけないこと
優秀な人に欠かせない集約的な能力である「思考力」にアプローチするために、採用側としては、どんな心構えで応募者のどこを観察すればよいのでしょうか。まず、「やってはいけないこと」から述べます。
「話が理論的なので、思考力は高いと思う」
「言っていることが正しいから、思考力が高いに違いない」
応募者の面接が終わった後、上記のように判断して採否欄に〇をつけてしまったことはありませんか。しかしながら、発言内容に好感を抱いて思考力を高く評価することは、採用選考において最も「やってはいけないこと」と言えるかもしれません。
応募者の話が論理的に思えても、その理論が「今、思考によって創出されたもの」とは限りません。その人が頭の中に、潤沢な知識やロジックを持っていたとしたら、その「持ちもの」を持ち出してきただけの可能性を否定できないからです。
話の内容が正しく思えたのは、その人が「正しい理論」をたまたま知っていたにすぎないかもしれません。あるいは、その人の価値観が自分と近かったから、共感度が増した可能性もあります。いずれにしても、発言内容を「その人の思考力の証左」とすることには無理があります。
多くの人が、思考しないで発言するテクニックを備えていて、アウトプットをそれらしく整えます。応募者が見せたいものを見て喜んでしまうと、思考しない学力秀才を採用してしまう憂き目を見ることになりかねません。応募者の思考力を知りたければ、操作可能なアウトプットでなく、その人が無意識のうちに繰り返す情報処理のスタイルに着目するのが合理的です。
「対象に向き合うか否か」が思考力の有無を分ける
未知の場面で新たな事象に触れたとき、そこに「じっくり向き合うか」あるいは「一見して離れるか」かが、その人の情報処理の質を決める分岐点となります。「向き合う」とは、対象が発する情報を自分の中に取り込もうとする行動のことで、情報を集めて思考プロセスに向かう人のスタート地点となります。
対象に向き合わない人は、分かりやすい1つの情報に反応して拙速的に動こうとしますが、多くの場合その行動には生産性が生まれません。「対象に向き合って情報集積を図るか」「情報集積をさぼって単一情報だけを頼りに動こうとするのか」、どちらを選択する人なのかが分かれば、その人の思考力も分かります。
思考は複雑な情報処理なので、そこに集中するためには相応のパワーが必要となります。精神的に安定し、心が静かな状態でないと、その困難な取り組みに舵を切ることができません。対象に向き合うことができない人には何らかの理由がありますが、その理由の中で最も多いのが「心が不安定だから」というものです。
●文/奥山典昭(おくやま のりあき)
概念化能力開発研究所株式会社代表、組織再編支援コンサルタント、プロフェッショナルアセッサー
大学卒業後、商社での海外駐在、大手電機メーカー、人事系コンサルティング会社などを経て、1999年に概念化能力開発研究所株式会社を設立。人の能力や資質を数値化して客観的に適性を評価する人材アセスメントと、組織に必要な人物像を抽出する採用アセスメントを駆使し、企業の組織再編や採用活動を支援。現在、応募者の本質を見抜くノウハウを企業の経営者や採用担当者に伝える採用アセスメントの内製化支援に注力している。著書に『デキる部下だと期待したのになぜいつも裏切られるのか』(共著・ダイヤモンド社)、『間違いだらけの優秀な人材選び』(こう書房)、『採るべき人 採ってはいけない人』(秀和システム)、『採るべき人採ってはいけない人第2版』(秀和システム)
https://conceptual-labo.co.jp