入社したばかりの新人が辞めてしまうのは、よくあることだ。過剰適応になる人もいれば、わずかの間に仕事中毒になって燃え尽きてしまう人もいる。
ミスばかりしてしまう
看護師の資格をとった香織は、子供のころから看護師に憧れていた。きっかけは、祖母が入院していたときに親切な看護師がいたことだ。
病院に就職するとき、看護師長に「不安もあるでしょうが、先輩たちが親切に指導するので安心してください」と言われた。彼女はこの言葉を信じて就職を決め、主にガン患者が入院する外科病棟に配属された。新人が配属されるのは珍しいが、病院は人手不足だった。看護が難しい部署だが、彼女はどんな仕事も率先してやろうとした。
ところが看護師長の話とは違い、実際には先輩は多忙なこともあり、仕事をほとんど教えてくれなかった。一度は教えてもらうが、それだけで覚えるのは難しい。自分なりに解釈してやってみるが、ミスをしてしまう。
また、彼女は三交代制の勤務に慣れず、いつも眠く、頭がボーッとして仕事に集中できずにいた。そんな自分の状態を誰にも相談できず、仕事を続けていく自信をなくしていった。せっかく就いた仕事だから辞めたくなかったが、精神的に限界になり、退職することにした。
ワーカホリズム
香織は、ミスや失敗を恐れてしまう性格だった。失敗をするとその場で呆然としてしまい、すぐに対処できなくなってしまう。
また、ワーカホリズムの可能性があった。ワーカホリズムとは仕事中毒とも訳され、意味は過度に働きすぎたり、仕事をしていないと落ち着かない状態の人を指す。就職が決まってからは、彼女は無我夢中で働いた。欠勤した人の代わりを率先して引き受け、残業や早出も買って出たが、就職してわずか4カ月で燃え尽きてしまった。
子供のころ、香織は両親の働く姿を見て、無意識に「生きることはつらい」「仕事は生活のため」というメッセージを受け取った。そこから抜けだそうとして、仕事中毒という依存症になってしまったのかもしれない。
チームが機能していない
香織の病院は人手不足の状態にあり、チームとして機能していなかった。コロナの影響が長引き、いまだに場当たり的な人員の配置になっており、新人の受け入れ態勢が整っていなかったと言える。そんな職場では、新人は置き去りにされた感覚になる。
本来、病院の仕事は信頼できるチームでやるべきであり、そのためには心理的安全が確保されていなければならない。互いにメンバーの存在を尊重し、自分の思ったことが言えるようなコミュニケーションができ、スキル不足を補い合いながら協力していけることが大切である。また、働いていて楽しいと思えることも必要だ。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。