2月末に厚生労働省から、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)の計画届受理件数が発表されました。これによると、令和6年1月末時点で受理したキャリアアップ計画届受理件数は3,749件、令和7年度までに取組を開始する予定労働者数は144,714人に達したとのことです。
社会保険の適用拡大により、加入要件の一つである「106万円の壁(月額88,000円×12か月)」を超えると社会保険の加入義務が生じるため、社会保険料の支払いが生じないよう労働者が就労時間を調整することなどが、人手不足に拍車をかけている一因とされています。
キャリアアップ助成金は、「年収の壁」を意識せず働くことができる環境づくりを支援するため、令和5年10月以降、新たに被用者保険を適用し、労働者の収入を増加させる取組を行った事業主に対して、労働者1人当たり最大50万円の助成金が支給されるという年収の壁・支援強化パッケージ施策の一つです。
前述の助成金の計画届受理件数や取組予定労働者数が多いのか少ないのかわかりかねますが、今年の10月1日からは、新たに「常時50人を超え100人以下の事業所」に社会保険の適用が拡大されますので、さらに助成金の活用は進んでいくように思われます。
適用拡大に該当する事業所については、法改正に対応するための準備が必要となりますので、厚生労働省の資料などから抜粋して確認していきます。
事業所規模の確認と加入対象者の把握
「常時50人を超える事業所」の従業員数のカウント方法は、「フルタイムの従業員数」+「週労働時間がフルタイムの3/4以上の従業員数(従業員には、パート・アルバイトを含みます)」で、いわゆる通常の厚生年金保険の適用対象者数のことです。社会保険の適用基準にあてはまらない労働者は、従業員数のカウントには含まれません。
月によって「常時50人」を超えたり超えなかったりしている事業所もありますが、直近12か月のうち6か月で50人超えの基準を上回る場合には適用対象になります。
なお、一度適用対象になると、常時50人を超えなくなった場合でも、引き続き特定事業所とみなされますが、労使合意に基づき、特定適用事業所の不該当の届出をすることもできます。
続いて、新たに被保険者になる短時間労働者の把握が必要になります。新たに加入すべき対象者は下記の項目すべてに当てはまった労働者です。
(1)週の所定労働時間が20時間以上であること
(2)雇用期間が2か月を超えて見込まれること
(3)月額賃金が88,000円以上であること
(4)学生でないこと
上記項目の補足事項としては、(1)「週の所定労働時間が20時間以上」は、契約上の所定労働時間であり、臨時に生じた残業時間は含みません。ただし、契約上週20時間に満たない場合でも、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3か月目から保険加入しなければなりません。(3)「月額賃金が88,000円以上であること」は、基本給及び諸手当を指し、残業代・賞与・臨時的な賃金等は含みません。(4)「学生ではないこと」については、休学中や夜間学生は加入対象となります。
●文/小杉雅和(こすぎ まさかず)
東日本事業本部 データリサーチチーム所属/社会保険労務士
大学卒業後、大手運輸会社に入社し、営業事務職に従事。その後、労働保険事務組合にて、労働・社会保険の各種手続き、相談業務に従事した。1998年、株式会社アイデムに入社。「パートタイマーの募集時時給表」等の賃金統計や「パートタイマー白書」等のアンケート調査を手がける。現在は労働市場に関する情報提供、各種アンケート調査の作成・分析を主に担当。