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ココロの座標/河田俊男

第99回 「人見知り」で仕事がつらい

人の心が引き起こすさまざまなトラブルを取り上げ、その背景や解決方法、予防策などを探ります。(2024年6月18日)

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 身のまわりに、人見知りの人はいないだろうか。彼らはそれを克服しようと、さまざまな努力をしているが、精神的に疲れ切ってしまうことがある。入社してすぐに退社してしまう人の中に、人見知りの人がいるかもしれない。


小さな会社に就職

 
22歳の香音は大学卒業後、小さな会社に就職した。人見知りな性格なので、なるべく人が少ないところで働きたいと考えていた。面接では外向的な人間を演じ、前向きなところが評価されて採用された。会社は彼女が人と関わることが苦手だとは思わなかった。入社後、営業部に配属され、事務を担当することになった。得意先と電話やメールなどでやりとりをする仕事だ。

 仕事を始めると、職場の人たちは仲がよく、香音にとっては想定外だった。彼女は輪の中に入れず、仕事で分からないことがあっても聞けなかったので、よくミスをした。新人だからという理由で寛容だったが、彼女には苦痛だった。

 彼女は自分が人見知りだということを隠して、社交的で明るい人間を演じた。演じた後は精神的に疲れ切ってしまい、トイレで1人きりにならないと回復できなかった。そんな毎日が続き、入社から3カ月ほどたったころ、限界を感じた。このままではうつ病になってしまうと思い、退職代行サービスに依頼して会社を辞めることにした。





雑談をするのが苦手

 
香音の勤務先は規模が小さいので、社長や役員も同じ場所で働いていた。彼らは彼女を気にかけ、毎日のように「職場には慣れた?」「仕事はどう?」「みんな親切に教えてくれる?」などと話しかけてきた。彼女はそうした質問にうまく答えられず、こんなことではクビになってしまうと思い、不安になった。また、昼食のとき、みんな軽い雑談をするが、彼女は苦痛だった。話しかけられてもうまく返せず、黙って下を向いてしまう。誰にどうやって助けを求めたらいいか、分からなかった。

 香音は、男性に「つまらない女」と思われることを恐れ、恋愛をさけてきた。心理学的にいうと、彼女には「接近回避葛藤」があると考えられる。相手に拒否される場面を自動的に考えてしまい、接近できないのだ。仮に相手に近づいても、自分のちょっとした態度を不信に思われ、どうせ相手に恋愛感情を持たれないと悲観的に考えてしまう。こうした「否定的な自己成就予言」という考え方は、彼女が誰とも恋愛できないことに関係している。


認知バイアス

 私たちは意思決定をするとき、先入観や経験則、直感などに頼って非合理的な判断をしてしまうことがある。これを認知バイアスという。香音はさまざまな認知バイアスで、人見知りを悪化させていたと考えられる。

 彼女は、社交場面で人見知りと知られ、否定的な評価をされることを恐れた。そのとき、自分の恐れることにばかりに注意が向く「注意バイアス」という認知バイアスが働いていた。同時に、自分自身の心の動きに注意が向く状態になっており、そのときには「自己注目」という認知バイアスが働いていた。さらに、自分の考えや感情が「他人にどう思われているか」を過大評価してしまう「透明性の錯覚」という認知バイアスも働いていた。

 3つの認知バイアスが、香音の考えや行動を縛っていた。さまざまな認知バイアスに気づけると、人見知りの苦しみから少しずつ解放されるはずだ。人見知りは、社交不安障害でもある。仕事ができないほどつらく、苦しい場合は、認知行動療法のような精神療法のできる専門治療機関を受診するといい。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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