企業への影響
10月1日から社会保険の適用範囲が広がり、従業員数が常時50人(現在100人)を超える事業所(特定適用事業所)に義務化されます。対象となる企業は、さまざまな負担が増える可能性があります。社会保険料は労働者との折半で、事務手続きも必要です。
保険料の負担を抑えたい場合でも、別の負担が増える可能性があります。対象者を加入対象から外すには働く時間を制限する必要があり、それを行えば今までの人員だけでは仕事が回らなくなるかもしれません。そうなると、短い時間や少ない日数で働くことを希望するパートタイマーやアルバイトを増やす必要があり、採用活動や増員によるマネジメントの負担が増えます。
つまり、加入させるにしても、保険料の負担を抑えるにしても、負担が生じます。これに対応するには、長く働いてもらえる人を雇用するコストと働く人を増やすコストを比較したり、マネジメントの労力を検討するなど、自社に適したやり方を考えていく必要があります。また、コストの問題は上昇を続ける最低賃金※もあり、あわせて考えていかなければなりません。
働く側の選択肢
今回の適用拡大によって加入対象になる人の選択肢は、大きく分けると次のいずれかになります。
<加入する場合>
・手取りが減らないように今よりも長く働く
・今までどおり働く
<加入しない場合>
・働く時間を減らす
加入する理由は「将来の年金額を増やしたい」「保険料の負担が軽くなる」(国民年金に加入している人)、「収入を増やしたい・維持したい」などがあげられます。
一方、加入しない理由は「手取りの減少」「配偶者控除を受けられなくなる」「扶養から外れる」などが考えられます。
準備しておくこと
企業が積極的に加入してもらう方針をとろうが、なるべく加入してもらわない方針をとろうが、最終的に決めるのは対象者本人です。加入したくなければ働く時間を減らすことになりますが、もし減らせず加入させられるようなことになったら辞めてしまうかもしれません。一方、加入を望んでも、企業が拒むようなことがあれば転職してしまう可能性があります。
今回の適用拡大で対象となる企業にはさまざまな準備が求められますが、最も大切なのは対象者とコミュニケーションをとっておくことかもしれません。それは、対応していくときの助けになるはずです。
7月、厚生労働省の有識者懇談会は、社会保険の適用に関して企業規模の要件撤廃を柱とする報告書をまとめました。また、5人以上のフルタイムの従業員がいる個人事業所や、現在加入が義務づけられていない業種(宿泊業、飲食業、理容・美容業など)を対象にすることも提言しています。
提言内容は、来年予定されている次期年金制度改正に向けた社会保障審議会年金部会の議論などに反映される見通しで、さらなる適用拡大が予想されます。
厚生労働省は、多様な働き方に対応した社会保障制度を目指しています。短時間労働者の雇用は、社会保険料の負担を踏まえて考えておくことがスタンダードになっていくのではないでしょうか。
●文/株式会社アイデム 東日本事業本部 データリサーチチーム