職場にいじられキャラの人はいるだろうか。面白い愛称で呼ばれたり、からかわれたりしてピエロを演じる。彼らの胸の内を想像したことがあるだろうか?
お笑い芸人に似ている
看護師の真麻は28歳で、2年前から救急外来に勤務していた。子供の頃から救急医療の仕事を映画やドラマで見て憧れていたので、勤務が決まったときは信じられないほど嬉しかった。しかし、仕事の忙しさは想像以上で体力も精神力も尽き果ててしまうほどだった。
ある日、真麻はチームリーダーである若い医師に「君、お笑い芸人の〇△に似てるね。これからは〇△ちゃんと呼ぶね!」と言われた。似ていると言われたのはいじられキャラとして知られ、テレビでも活躍している有名芸人だった。
真麻は、言われた瞬間はショックだったが、思わず自分も笑ってしまった。その後、真麻はリーダーから「〇△ちゃん」と呼ばれて、からかわれるようになった。あだ名もからかわれるのも嫌だったが、チームの緊張感がほぐれ、リラックスした雰囲気になるので受け入れた。だが、仕事が終わり家に帰ると、いじられキャラにされたことを思い出して涙が止まらなくなった。やがて仕事でミスを連発するようになり、ついには病院を辞める決心をした。
傷ついて性格が変わった
真麻は自分がいじられることで、チームに貢献している気分になった。しかし、家に帰るといじられたことを思い出して悲しくなったり、怒りがこみあげてきたりした。その後、きまって孤独感に襲われた。孤独感を消そうとしてチョコレートやケーキなどの甘いものを食べることが増え、やがて夜中に暴飲暴食するようになった。そんな翌朝には、きまって職場に行きたくない気分になった。
真麻はリーダーにいじられてから、他人にどう思われているかが気になり、恐れるようになった。チームの打ち合わせでも集中できず、ミスを連発するようになった。彼女はいじられ続けたことで、性格も内向的になった。今までは自分に自信があったが、自尊心が傷つけられ、自信がなくなってしまった。リーダーの医師はそんな真麻を見て「重要な仕事は任せられない」と思い、簡単な仕事ばかりをさせるようになった。
認知機能が低下する
真麻は、職場に行くと「また今日もいじられるのではないか」と不安になり、ミスをするようになった。誰でも恐れや不安があれば認知機能が低下し、見逃がしたり、見誤ったりするようになり、行動が萎縮してやる気をなくしてしまったりする。やがて彼女は仕事を休むようになり、気力を失っていった
また、彼女は心の中で「どうせ醜いんだ。だったら、もっと醜くなってやる」と思う一方で、美容整形クリニックのサイトを見て、手術を受けてきれいになった自分を想像していた。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。