近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年11月19日)
【事案の概要】
本件は、原告が被告会社から違法な内定取消をされたとして、未払給与の支払いや損害賠償等を求めた事案です。
被告会社は、コンピュータの周辺機器の設計・開発・製造及び販売等を業とするO社です。原告はA社に勤務していましたが、転職活動を始め、人材バンクを通じて被告会社の入社試験を受け、平成15年7月1日を契約始期とする採用内定通知を受けました。原告は他に採用内定を受けていた会社が1社、最終面接待ちの会社が2社ありましたが、全て断り被告会社に入社することにしました。
ところが、被告会社内でA社出身の従業員に原告の評判を聞いたところ、勤務態度に問題があるとか、空売り問題があった(原告の報告に基づき約8,000万円の売上を立てていたが、納品に至らず、大量の不良在庫が発生して上司や同僚が大変な苦労をした)という話が出てきました。
そこで被告会社は一旦原告の採用内定を留保し、その旨、原告に伝えました。被告会社の人事担当者は原告に対し、留保の理由について、(1)原告の勤務態度、勤怠について問題がある、(2)空売りがある、(3)客先とのトラブルがある、(4)社内的に問題視されていた、(5)退職に至る経緯が不明瞭、と伝えました。
その後、A社役員や原告自身の釈明文書(いずれも上記の原告に関する話は事実ではない旨記載)、A社役員との面談を受け、被告会社の社長が原告に面接を行いました。その結果、被告会社は再度内定通知を出しましたが、社内の納得を得られず、結局原告の採用を見送ることにしました。
被告会社は原告に対し、採用内定取消の原因として「原告の前職での情報及び被告会社での伝達情報等が起因し、原告入社による社内の風紀が著しく混乱を来し、当該事情の解明に努力したが、現状の回復には至らなかった」と伝え、謝罪金として給与月額の3カ月分相当の7割(約91万円)の支払いを提示しました。しかし原告はこれに納得せず、本件訴訟の提起に至りました。
【裁判所の判断】
裁判所は、被告会社が原告に対して採用内定通知を出しており、原告と被告会社との間で「始期付解約権留保付き労働契約が成立している」としました。
そして本件の内定取消について、被告の解約権行使は客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認できる事由がある場合には、当該解約権の行使は適法であるが、そのような事由が存在しない場合は、当該解約権の行使は「無効である」としました。そのため、原告と被告会社との間に労働契約は継続しているので解約権行使は違法とし、行使に伴い原告が被った損害を賠償する「義務を負う」と解するのが「相当である」としました。
●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
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