近年、労働関係の訴訟は社会的関心が高まり、企業にとって労使トラブル予防の重要性は増しています。判例をもとに、裁判の争点やトラブル予防のポイントなどを解説します。(2024年4月22日)
【事案の概要】
一般職の女性社員(原告)が、会社(被告)が総合職に対してのみ社宅制度(いわゆる借上社宅)の利用を認めているのは「男女雇用機会均等法6条2号及び民法90条に違反する」と主張し、損害賠償等を求めた事案です。会社では、就業規則において、総合職と一般職について以下のように定義付けていました。
総合職:会社の命ずる任地に赴任することが可能であり、職能ランク基準に相応する専門知識を基礎とした総合的な判断能力を発揮し、非定型で幅のある業務を円滑に遂行する能力があると認められる者(本社の管理職数名のほかは営業職が多数)
一般職:一般事務等の定型的、補助的な業務に従事する職種であり、就業場所に異動がない者
【裁判所の判断】
本件の争点は多岐にわたりますが、主に一般職に社宅制度の利用を認めていないことが「直接差別または間接差別に当たるか」が問題になりました。直接差別は、性別によって取り扱いを変えるものです。
まず直接差別の点については、総合職がほぼ全て男性であり、社宅制度の利用対象が総合職に限定されていたため、結果として総合職と一般職の間に一定の待遇格差が生じていたことを認定しました。例えば平成29年2月時点で、40歳未満の総合職が8万2,000円の家賃の独身寮を利用した場合、会社が6万5,000円を負担します。一方、一般職は同額の家賃であった場合、3,000円または6,000円の住宅手当が支給されるにすぎません。
しかし、総合職の大半が営業職であり、結果として社宅制度の適用がほぼ全て男性であったのは、女性の営業職応募者が少ないことが原因であり、「性別に由来するものではない」などとして、直接差別は否定しました。
次に間接差別の点についてです。まず判断する際の枠組みとして、男女雇用機会均等法7条及びこれを受けた同法施行規則2条2号では「住宅の貸与」があげられていないことを確認しつつも、間接差別はこれ以外にもあり得るとして、均等法7条に抵触しなくとも民法等の一般法理に照らして「違法とされる場合がある」ことを認めました。
そして、被告会社の社宅制度についても、男女比率、制度の内容、女性従業員の不利益、制度の合理的理由等を考慮し、間接差別に該当するか否かを均等法の趣旨に照らして検討し、間接差別に該当する場合には、「民法90条(公序良俗に反する法律行為を無効とするもの)違反等を検討すべき」としました。
その上で、被告会社の社宅制度については、総合職の定義からすると、住居の移転を伴う配転に応じることができることを要件としていながら、実際にはそれ以外にも社宅利用が認められていること、その恩恵を受けたのはほぼ全て男性であったこと、受ける経済的利益の格差がかなり大きいことを認定しました。
被告会社は、総合職のみに社宅制度を認めている理由として、営業職には転勤がありうること、キャリア上も転勤が必要であること、かつ営業職の採用戦略の一環であること等を主張しました。しかし、これらは総合職ではなく営業職についての理由であり、営業職以外の総合職にも社宅制度が適用される理由にはなりません。また、実際には転勤を経験していない営業職もおり、採用でも賃金を手厚くすることが最も効果的であり、社宅制度が「どの程度機能しているか明らかではない」などと判示し、その合理性を認めませんでした。
結論として、被告の社宅制度は均等法の趣旨に照らし、「間接差別に該当する」としました。
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●文/岡正俊(おか まさとし)
弁護士、杜若経営法律事務所代表。1999年司法試験合格、2001年弁護士登録(第一東京弁護士会)。専門は企業法務で、使用者側の労働事件を数多く取り扱っている。使用者側の労働事件を扱う弁護士団体・経営法曹会議会員。
https://www.labor-management.net/