令和5年雇用動向調査によると、常用労働者数に対する入職率・離職率はそれぞれ16.4%、15.4%と、ほぼ同じ水準となっています。入社する人と退職する人が「同じくらい存在する」ことになり、企業側から見れば採用した人が「定着していない」と捉えることができるかもしれません。
採用した人に定着してもらうには、入社した後の対応が大切です。代表的な施策としてオリエンテーションとオンボーディングがあります。オリエンテーションは会社や組織の基本情報、ルール、制度などを説明する「導入説明」のことを指し、通常、数時間から数日で完結します。一方、オンボーディングは新人が職場になじみ、パフォーマンスを発揮できるようになるまでの一連の支援プロセスを指します。数カ月から1年にわたって継続的に行われるのが特徴です。
今回は、採用した人に対するマネジメントとして「どのような対応が求められるか?」を考えていきます。
■今回の事例
製造業のA課長(40代男性)は、新人のBさん(20代男性)に対し、入社初日に「会社概要」「就業規則」「安全衛生規則」などについての説明を行った後、現場に入ってもらいました。指導担当者としてCさん(30代男性)をつけましたが、その後は具体的なフォローはしていませんでした。入社から3カ月後、Bさんは周囲になじめなかったことなどから退職してしまいました。
■解説
A課長はBさんにオリエンテーションを行い、指導担当者も配置しましたが、定着してもらうためには十分な対応とは言えません。必要なのは、オンボーディングを意識した継続的な支援です。
新人が質問・相談しやすい雰囲気づくりを
新人は基本的に「質問しづらい」「相談しにくい」状態にあると想定して対応すべきです。単に「困ったら聞いてね」と伝えるだけでは不十分で、こちらから積極的に声をかける姿勢が求められます。新人には定期的に面談を実施し、悩みや不安などをヒアリングするようにしましょう。また、指導担当者以外にも相談できる選択肢を示すことで、心理的なハードルを下げることができます。
<面談時の質問例>
【最初の1カ月】緊張と不安をほぐすための質問
・入社してみて、驚いたことや意外だったことはありますか?
・仕事をしていて、困ったことや迷ったことはありましたか?
・話しかけやすい先輩はいましたか? 逆に、少し距離を感じた場面はありましたか?
・今、どんなサポートがあるとうれしいですか?
【2〜3カ月目】成長を振り返るための質問
・これまでで、自分が成長したと感じる場面はありましたか?
・やりがいを感じた瞬間はありましたか?
・難しいと感じる業務はどんなものですか?
・今後、チャレンジしてみたいことはありますか?
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●文/山田真由子(やまだ まゆこ)
山田真由子社会保険労務士事務所代表。特定社会保険労務士、公認心理師、キャリアコンサルタント。26歳のときに3度目の受験で社会保険労務士に合格。さまざまな業種にわたり、約15年のOL 生活を経て、2006年12月に独立開業。現在、「誰もが輝く職場づくりをサポートする」をミッションとして活動している。経営者や総務部担当者などから受けた相談件数は延べ10,000件以上、セミナー登壇は1,500回以上を数える。著書に『外国人労働者の雇い方完全マニュアル』(C&R研究所)、『会社で泣き寝入りしないハラスメント防衛マニュアル部長、それってパワハラですよ』(徳間書店)、『すぐに使える!はじめて上司の対応ツール』(税務経理協会)。