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人が育つ会社/田中和彦

第8回「正すべき部下への見て見ぬふりは、上司の役割放棄」

どんな環境であれば、人は育つのでしょうか。人が育つ会社になるための人材育成の考え方や手法などを解説します。(2025年11月13日)

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問題行動を正し、望ましい行動へと修正することは、パワハラではない

 今回は前回のコラムに引き続き、「正すマネジメント」について話を進めたいと思います。なぜなら、最近では、部下を「正す」ことを極端に恐れ、避けてしまう上司が増えているからです。

 部下の問題行動に対する指摘は、上司の責務であり、ハラスメントなどではありません。しかし、上司からの指摘を「パワハラだ」と訴える部下がいたりして、上司も臆病になっているのです。実際はハラスメントなどではないのに、何かと「ハラスメントだ」と声高に言うことを、「ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)」と呼ぶこともあるくらいです。

 管理職研修で、「“褒める”の反対は何ですか?」と聞くと、受講者の方はたいてい「“叱る”ですよね」と答えてくれます。「じゃあ、“叱る”の反対は何ですか?」と尋ねると、相手は少し困惑した表情で、「“褒める”の反対が“叱る”なら、“叱る”の反対は“褒める”でしょうか」と、こちらの意図を探るように恐る恐る言ってくれたりします。

 それで間違いはないのですが、マネジメント上、“褒める”の反対は「褒めない」であり、“叱る”の反対は「叱らない」なのです。
 だから、褒めるべきときに部下を褒め、𠮟るべきときに部下を叱るのは、上司の責務だと思ってください。それをやらないのは上司の役割を放棄していることに他なりません。





 数多くの名言を残している野村克也監督の言葉に以下のものがあります。

  『好かれなくてもよいから、信頼はされなければならない。
   嫌われることを恐れている人に、真のリーダーシップは取れない』

 誰にでもいい顔をしてしまう八方美人の人に、強いリーダーシップは発揮できないということです。信頼されるには、時に厳しさも必要なのです。
 部下を指導するという育成の考え方の中には、「正す・叱る」ことが必ず含まれています。叱らなくても部下を指導できる方法などはありません。

 部下の問題行動をきちんと指摘し、望ましい方向へ導いていくことは、上司としての重要な役割・責務なのだと、強く心に刻んでおいてください。


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●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。
連絡先:info@planet-5.com
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