おとすにも、いろんな意味がある
「相手をおとす話し方ってあるんですか?」
ごくごくたまに聞かれる質問です。そんなときはこう質問してみます。
「おとす話し方ってあったら便利ですよねぇ〜。ところで、その『おとす』というのは、どういう意味の『おとす』なんですか? 恋愛的に『おとす』? それとも商談などで相手が購入の決断をするという意味の『おとす』? 刑事ドラマの取り調べみたいに相手がグゥの音も出なくなる『おとす』ですか?」
そうすると、『おとす』という意味にも、いろいろな意味があることに相手は気づきます。
「いや、例えば…商談などで相手を説得して契約を取るというか…」
「なるほど〜。ちなみにどんな場面なんですか? どんな人に対してですか? 何を、どのように『おとしたい』のですか?」
そう問いかけると相手の方はしばらく黙って考えて、ポツリポツリと語り始めます。それを急かさず、丁寧に聴きながら、「どんなシーンなのか?」を擦り合わせます。
お気づきでしょうか? これが『おとす』話し方なのです。
おとしたい=意見が対立している
もう少し詳しく、理屈っぽく解説しましょう。
『おとしたい』と思っているということは、意見が対立しているということです。それは利害関係が一致していないとか、考え方が異なっているとか、ベストだと考えている方法が食い違っている場合に起こります。そして多くの場合、実は前提条件が共有されていないことが原因です。自分と話し相手が同じ景色を見ていないのに、自分の伝えたいことばかりを主張しても、相手が納得するはずがありません。
私が講演会や企業研修などで行う息抜きのゲームがあります。今から私が言う状況が「どんなシーンなのか?」を想像してもらうというものです。そして、頭に思い浮かべたシーンが「どんな感情のシーンか?」を考えてもらいます。では、ゲームをやってみましょう。
『飼い犬のアレキサンダーが喉元にとびかかってきた』
さぁ、あなたはどんなシーンを想像しましたか?
うれしいシーン? ムカつくシーン? 悲しいシーン? 楽しいシーン? それとも怖いシーン?
これ、「飼い犬のアレキサンダー」をドーベルマンやシェパードだとイメージすると、怖いシーンになります。人によっては獰猛な犬が目を血走らせて、よだれを垂らしながらうなり声を上げて襲い掛かってくる様子をイメージするようです。
逆に「飼い犬のアレキサンダー」をトイプードルやチワワ、ポメラニアンとしてイメージすると楽しいシーンになります。小さなかわいい犬がベロを出しながら、尻尾を思いきり振ってとびかかってくる様子をイメージするようです。「焦ってビックリするけど、かわいいよねぇ」なんて、ほっこりして笑顔まで出ます。
誰もが知っている「犬」という言葉でも、人によって脳内で再生される映像はまったく違います。これが仕事の話になればもっと複雑になるわけですから、前提条件のイメージが食い違うのは当然ではないでしょうか。
●文/桑山元(くわやま げん)
研修講師・お笑い芸人・俳優。早稲田大学教育学部を卒業後、大手損保会社に入社。新入社員代表として答辞を務める。入社2年目に資産運用担当者として1,000億円を運用。その後、メインバンク本店担当部署で法人営業を経験。同社を退社後、声優養成所を経て、時事ネタを得意とするコントグループ「ザ・ニュースペーパー」に19年間所属。2022年に退団し、芸人と研修講師の二刀流で活動スタート。会社員時代に培ったビジネススキル、お笑い芸人として磨いたコミュニケーションスキルとアドリブ力などを武器に、企業や自治体などで数多くの研修を実施。メディア出演・掲載実績多数。著書に『すぐ使える!おもしろい人の「ちょい足し」トーク&雑談術』(日本実業出版社)。キャリアコンサルタント(国家資格)、損保代理店資格(特級・一般)、ニュース時事能力検定(準2級)。