限定正社員の普及に必要なこと
日々、流れてくる、労働関連の多彩なニュース。本コラム欄では、アイデム人と仕事研究所の所員が、そうしたニュースに触れて「思うこと」を、持ち回りで執筆します。
今年の春ごろから、限定正社員という言葉をよく耳にするようになりました。
限定正社員とは、職務、勤務地、労働時間等を限定した上で、企業と無期雇用契約を結ぶ働き方です。一方、従来の正社員の定義としては一般的に、無期雇用、フルタイム、直接雇用であり、かつ職務、勤務地等が限定されていない働き方です。従来の正社員を無限定正社員とすると、限定正社員は職務、勤務地、労働時間等を限定して契約を結ぶ「職務等限定正社員」、いわゆるジョブ型正社員ということになります。
限定正社員という働き方は、安倍首相の経済政策「アベノミクス」の成長戦略の一環として、規制改革のあり方を検討する規制改革会議の雇用ワーキング・グループで議論、検討されたものです。
また、6月14日に閣議決定された[日本再興戦略−JAPAN is BACK−]の雇用制度改革・人材力の強化における「多様な働き方の実現」に向けた1つのモデルでもあります。
限定正社員の議論、検討が活発化した背景には、今年4月に施行された改正労働契約法も関係しているようです。今年4月の有期の労働契約からは、通算5年を超えて労働契約が反復更新された場合、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるようになります。この法律によって有期から無期に転換できる人は2018年4月から増えて行くことが見込まれているからです。
規制改革会議の雇用ワーキング・グループ報告書では、限定正社員の普及・定着が必要な理由として、下記の5つの項目をあげています。
(1)非正規社員の安定
正規・非正規の労働市場の二極化が問題となる中で、多様な(多元的)な雇用形態を作ることが、有期雇用から無期雇用への転換をより容易にし、雇用の安定化を高めることにつながる。
(2)ファミリーフレンドリーでワークライフバランスが達成できる働き方の促進
勤務地限定型や労働時間限定型をライフサイクルに応じて選択できることで、子育て・介護との両立やワークライフバランスをより達成しやすい働き方がより可能となる。
(3)女性の積極的な活用
地域限定型、労働時間限定型の正社員が男女を問わず普及することで女性の労働参加の促進や活躍の場の広がりが期待できる。
(4)相互転換によるキャリアの継続
同一の企業で無限定型とジョブ型を相互に移動することが可能になれば、無限定型で入社した社員が子育て期には勤務地や労働時間限定型になり、その後、また無限定型に戻ることが可能となり、キャリアの継続に大きな効果が期待される。
(5)自己のキャリア・強みの明確化と外部労働市場の形成・発達
職務限定型正社員の場合、自分のキャリア、強みを意識し、価値を明確化させながら働くことで外部オプションを広げ、転職可能性も高まり、それが現在の職場での交渉力向上にもつながるため、将来に向けたキャリアを意識しながら「未来を切り開く働き方」を実現できる。
現在の労働市場は、無期雇用の正社員とパート・アルバイト、契約社員、派遣労働者等の有期雇用の非正規雇用に二極化され、非正規雇用は全体の4割近くとなっています。
処遇格差や有期の不安定雇用も問題になっており、上記(1)〜(5)を実現させるべく政府が、限定正社員の普及促進をめていくことは大変重要なことだと考えます。
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●文
株式会社アイデム人と仕事研究所 小杉雅和
【担当分野】賃金統計・アンケート調査等の作成、分析。
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