第22回「プライドをかけて」
働く個人にこれまでのキャリアや仕事観を聞き、企業が人を雇用する上で考えなければならないことを探ります。
●上田昌夫さん(仮名・50歳・店舗経営)
上田昌夫さんは40歳のときに会社員生活にピリオドを打ち、店を開業した。自分の店を持つことが目標だったわけではない。開業理由は、さまざまなタイミングが重なったことである。
上田さんの店は、洋服の修繕を専門に請け負っている。店には高い技術を持つ職人がいるため、高価なヴィンテージ品の修繕を頼まれることも少なくない。
「直すより買ったほうが早いですし、そのほうが安いこともあります。でも、愛着のある洋服を直して、長く着るというのは人生を豊かにしてくれると思います」
開業前、上田さんはアパレル販売会社に勤務していた。新卒で入った会社で、入社動機はファッションに関わる仕事に就きたかったからである。上田さんがファッションに目覚めたのは高校生のときだ。友人の影響で洋服に興味を持ち始め、大学生のときにはヴィンテージの洋服を集めていたという。
「その会社には、今の店でやっている修繕の仕事を請け負う部門がありました。修繕にはヴィンテージがよく持ち込まれます。そこへの配属を希望していましたが、販売に配属されました」
仕事は忙しかった。特にボーナスが出る7月、12月は休みが取れないほどだった。退職を考えたこともあったが、辞めなかったのは仕事の楽しさを知ったことだ。
「あるとき、まったく売れなかった商品が販売方法を工夫することで売れ出したことがあったんです。仕入れてから1つも売れていない商品がありました。まず、その商品を自分で着てみました。そして他の洋服との合わせ方をマネキンで示すようにしたら、売れ出したのです。上司には褒められ、それから販売の仕事に興味を持って取り組めるようになりました」
販売職にやりがいを見いだしながらも、ヴィンテージを扱う仕事に携わりたいという上田さんの思いは消えなかった。異動の希望がかなったのは、入社して10数年が過ぎたころだった。自分が望んでいた仕事に就けたことはうれしかったが、数年後に会社は倒産してしまう。
「ファッションは時代とともに変化します。倒産した理由はいろいろありますが、時代についていけなかったことが大きいと思います」
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●取材・文/三宅航太
株式会社アイデム人と仕事研究所 研究員。大学卒業後、出版社の営業・編集、編集プロダクション勤務を経て、2004年に株式会社アイデム入社。同社がWEBで発信するビジネスやマネジメントなどに役立つ情報記事の編集業務に従事する。人事労務関連ニュースなどの記事作成や数多くの企業ならびに働く人を取材。
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