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シゴトの風景

第45回「会社が倒産したとき」

働く個人にこれまでのキャリアや仕事観を聞き、企業が人を雇用する上で考えなければならないことを探ります。

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 1年前、勤務先が倒産して会田治さん(仮名・41歳)は仕事を失った。会田さんが勤務していたA社は広告業を営んでいたが、インターネットの台頭で苦戦していたという。
「紙媒体の広告を中心に扱っていたので、近年は厳しい状況が続いていました。辞めようと思ったこともありましたが、最後までいたことで貴重な経験ができたと思います」


 32歳のとき、会田さんはA社に入った。社会に出てから3社目の会社で、じっくり腰をすえて働きたいと考えていたところだった。

「社長が創業者で、社員は20人程度いました。職種は広告の制作です。主な仕事はパソコンを使って広告のデザインをしたり、印刷用の版下を作ることなどです。ホームページの管理などもやっていました」
 会社の状況に問題があることは、入社したときから聞いていたという。


「歓迎会を開いてもらったのですが、その席で会社に対する不満が話題になりました。社長は中小企業にありがちなワンマンタイプで、みんな不満を持っているようでした。これまで働いてきた会社も中小だったので、どこにでもあるような話でしたが、笑えない内容もあったので入社したことを少し後悔しました。ですが、雰囲気は和気あいあいとしていて、人間関係は悪くなかったのでやっていけるなと思いました」

 業績不振が深刻になったのは、倒産の2年ほど前からだった。


「社員同士でも“危ないんじゃないか”という話をよくしていました。一度、不渡りが出たという話も聞きました。結局、デマだったようですが、そんなうわさが出るくらい厳しい状況だったようです」

 最後の1年は社員の退職が相次ぎ、人数がみるみる減っていったという。
「おもしろかったのは、“がんばっていこう”とか“前を向いていこう”などとポジティブな発言をしていた人ほど、先に辞めていったことです。不満を口にしていた人のほうが残っていたりして、さまざまな人間模様を見ることができました。よく言われることですが、人を見るときは言葉ではなく行動で判断する、ということが身にしみて分かりました」


 倒産の数カ月前は給料も遅れ、さすがに会田さんも退職を考えた。だが、考えた末、残ることにした。

「最後までいようと思った理由は3つあります。1つ目は倒産してからのほうが、転職活動をしやすいと思ったことです。2つ目は残ることでさまざまな経験ができるのではないかと考えたこと、3つ目は会社に対する愛着です。長く働こうと思って入った会社ですし、同僚には気の合う人が何人もいました。自分だけ逃げ出すわけにはいかないという気持ちもありました」



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●取材・文/三宅航太

株式会社アイデム人と仕事研究所 研究員。大学卒業後、出版社の営業・編集、編集プロダクション勤務を経て、2004年に株式会社アイデム入社。同社がWEBで発信するビジネスやマネジメントなどに役立つ情報記事の編集業務に従事する。人事労務関連ニュースなどの記事作成や数多くの企業ならびに働く人を取材。
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