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怒りや妬みなどの負の感情のコントロールを学ぶことは、メンタルを強くし、仕事の成果や自己成長につなげることができます。メンタルトレーニングの考え方をベースに、ビジネスシーンで沸き起こるさまざまな感情との向き合い方を解説します。(2019年10月31日)
ラグビーワールドカップ2019では、日本代表チームが史上初のベスト8に進出し、大健闘しました。私は、日本代表チームのベスト8は決して運や偶然ではなく、必然だと考えています。なぜなら日本代表チームには、チームの感情をコントロールする方法が随所に盛り込まれていたからです。今回は、ラグビー日本代表から学ぶチームの感情をコントロールする方法を紹介します。
1.Pep Talk(ペップトーク)
ペップトークとは、選手の自信を高めたり、励ますように作られた、短くて強烈なインパクトを与える言葉がけです。ペップトークの使い方によって、選手のパフォーマンスに影響を与えることが示唆されています(Clark,2013;Stephen&Jonathan,2011;Terry& Dinsdale,2006)。
<ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ>
「誰も勝つと思ってない。誰も接戦になるとも思ってない。誰も僕らが犠牲にしてきたものは分からない。信じているのは僕たちだけ」
ジョセフヘッドコーチは、大一番のアイルランド戦の直前、詩の形式にしてペップトークを使用しました。ペップトークは、選手の気持ちを考えて、時間は短く(1分以内)、メンタル面に関する内容が効果的です。長話、技術的な話、毎回同じ内容はNGです。
<リーチ・マイケル主将>
「自分たちのハードな練習によって、何度も何度も火入れし、叩いて強くした刀は世界でも負けない強度を誇る」
リーチ主将は、今までの努力の過程を、日本人になじみが深い刀に例えて、ペップトークを使用しています。ペップトークは、今までの努力の過程を盛り込むと効果的です。努力を思い出すことは、自信の向上につながるからです。
2.Motivation Video(モチベーションビデオ)
モチベーションビデオとは、ペップトークの動画版です。自作した動画または映画を使用します。選手の自信、集中力を高める効果があります(永尾&杉山,2014;山崎&杉山,2009)。
<ピーター・ラブスカフニ ゲーム主将>
ウィル・スミス主演の映画「幸せのちから」のワンシーンを見せてチームを鼓舞。
「周りに無理だなんて言わせるな。欲しいものを取りにいけ」というセリフを引用。ラブスカフニは「あれは大きな戦いに挑む前に見るにふさわしいシーン」と語った。
自信を高める方法の1つに、「代理体験 (モデリング)」があります。他者を観察することで「これなら自分にもできる」と自信を持つことができます。このモデリングにおいては,観察する他者のパフォーマンスレベルが自分自身に類似しているほど効果的であるとされています(永尾&杉山,2013)。
映画「幸せのちから」は、ホームレスから億万長者となり、アメリカンドリームを実現させた実在の人物、クリス・ガードナーの半生を基に描いた実話に基づいた物語です。
ラブスカフニ選手は、下馬評で不利と言われていた日本代表とアメリカンドリームを夢見るクリス・ガードナー氏を重ね合わせて、「幸せのちから」を見せたと推測できます。ペップトークは、ポジティブかネガティブかによって、自信、プレッシャー、パフォーマンスに影響を及ぼすので、注意してください。モチベーションビデオは、チームの状況にリンクした内容を慎重に選んでください。
※文末のカッコ内は出典元の論文著者と発表年です
●文/笠原彰(かさはら あきら)
作新学院大学教授、メンタルトレーニングラボ代表、栃木県体育協会スポーツ医科学委員会委員
日本体育大学大学院修了。プロアスリートや中高生チームへの指導など、メンタルトレーニングに関する豊富な実績を持つ。近年はスポーツ分野にとどまらず、一般企業のビジネスパーソンのメンタルスキルトレーニングや講演活動も行っている。著書に『誰でもできる 最新スポーツメンタルトレーニング』(学研プラス)、『気持ちの片づけ術』(サンクチュアリ出版)、『ゴルフのメンタルテクニック エビデンスに基づく 50のドリル』(ゴマブックス)。
http://mt-labo.sakura.ne.jp/
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