人材育成や評価、意思決定など、マネジャーにはさまざまな役割が求められます。マネジャーに必要な視点や考え方、心の持ち方などについて考察します。(2022年9月22日)
心理的安全性の高い組織は、“ぬるま湯”職場なのか?
この連載でも何度か取り上げてきている「心理的安全性(psychological safety)」ですが、この言葉を最初に使い始めたのは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・C・エドモンドソン教授だといわれています。
彼女は、1999年に提唱した論文の中で、この心理学用語を用い、「心理的安全性が確保されているのは、チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。
例えば、職場のメンバー同士で、「このチーム内では、お互いの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている」ことが重要なポイントというわけです。
心理的安全性という言葉がさらに世の中で注目を集めるようになったのは、グーグル社が2016年に「生産性の高いチームは心理的安全性が高い」という研究結果を発表してからでしょう。
グーグル社は、2012年から約4年をかけて、成果を上げている組織に共通した要件を調査する「プロジェクト・アリストテレス」を実施。社内の約500の部署を分析し、生産性の高い働き方をしているのはどのような部署なのか調べ上げたのです。そして、出てきたのが、「チームを成功へと導く5つの鍵」というもの。その最初にあげられていたのが、心理的安全性でした。
心理的安全性の高い職場とは、分かりやすく言い換えれば、物が言いやすく風通しがよい職場ということです。管理職研修などで、この心理的安全性の話をすると、「ぬるま湯的な職場とは、どこが違いますか?」という質問を受けることがあります。
確かに社員同士仲が良い状態というのは、ぬるま湯だと勘違いされやすいのかもしれませんね。ただし、ぬるま湯職場というのは、人間関係だけが良くて、成果にコミットしない“緩い”組織の場合です。
本当に強い組織というのは、立場にかかわらず意見を互いに出し合うことができて、時には考え方の対立や衝突がありながらも、高い基準の成果を上げられる職場だと思います。
「和気あいあい」という言葉がありますが、それだけではなく「切磋琢磨」の要素もある職場だといってもいいと思います。
●文/田中和彦(たなか かずひこ)
株式会社プラネットファイブ代表取締役、人材コンサルタント/コンテンツプロデューサー。1958年、大分県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、人材サービス関連企業に入社し、情報誌の編集長を歴任。その後、映画配給会社のプロデューサー、出版社代表取締役を経て、現在は、「企業の人材採用・教育研修・組織活性」などをテーマに、“今までに2万人以上の面接を行ってきた”人材コンサルタント兼コンテンツプロデューサーとして活躍中。新入社員研修、キャリアデザイン研修、管理職研修などの講師や講演は、年間100回以上。著書に、『課長の時間術』『課長の会話術』(日本実業出版社)、『あたりまえだけどなかなかできない42歳からのルール』(明日香出版社)、『時間に追われない39歳からの仕事術』(PHP文庫)、『仕事で眠れぬ夜に勇気をくれた言葉』(WAVE出版)など多数。