【第12回】お客さまの背中をそっと押す「フォールス・コンセンサス」
商談や接客時など、ビジネスシーンに応用できる心理学の知識を解説します。
フォールス・コンセンサスとは?
フォールス・コンセンサスとは、多くの人が自分と同じ意見や行動をするだろうと思うことを言います。これは人間の持つ生存本能に適したものです。自分がみんなと同じことをしていれば安心感を得られますし、うまくいくと考えているから同じ行動をするのです。よって、無意識に自分の行動は、周りと一緒と思ってしまうということです。
●解説
こんな心理実験があります。
インタビューで「AとBのお茶どちらがおいしいのか?」を聞きました。その結果、70%の人が「Aがおいしい」、残り30%の人は「Bがおいしい」と答えました。その後、インタビューはこう聞きます。
「他の人たちのうち、何%くらいが、あなたと同じようにAを選んだ(あるいはBを選んだ)と思いますか?」
するとAを選んだ人の75%、Bを選んだ人の57%が「自分と同じものを選ぶ」と答えたのです。Aを選んだ人もBを選んだ人も、自分と同じ選択をする人を、実際よりも多く見積もったのです。これをフォールス・コンセンサスと言います。
クロージング前は、お客さまの心理が揺れ動きます。不安を取り除くためには、他のお客さまの生の声を聞いてもらうのが一番です。しかし、実際のお客さまと会わせることができない人もいるでしょう。
そんなときは「他のお客さまが満足している例」を集めて、契約前のお客さまに送ることが効果的です。それを見たお客さまは他の人もこれだけ満足しているのだから安心だと思ってもらえる確率は高くなります。それを怠った失敗例をお話します。
あるとき、商談を進めていたお客さまから「菊原さんにお願いしようと思っているんです」と言われました。
良い結果が出てきた私は仕事が一気に楽しくなりました。接客に積極的になり、新規へのフォローも積極的に取り組むようになりました。
しかし、ここに落とし穴があったのです。後日、私がお客さまのところへ訪問すると「実はもう1社だけ見積もりを頼んでいて、週末に出ます」と言われました。
週末までの数日間、私はこのお客さまを必死に訪問したり、手紙を送ったりしました。しかし結果は敗戦。後から見積もりを出してくる会社の方が断然有利です。
もし契約が決まりかけた翌日に【お客さまが満足している声を集めた資料】を送っていたらどうだったでしょうか。決まる寸前が、一番お客さまの気持ちが動きます。最後まで手を抜かないようにしましょう。
菊原智明●営業コンサルタント。大学卒業後、大手住宅メーカーに入社し、営業部に配属。「口ベタ」「あがり症」に悩み、7年間、苦しい営業マン時代を過ごす。その後、それまでの営業活動の間違いに気づいてやり方を大きく変えたところ、成績がみるみる上がり4年連続トップ営業マンに。自分と同じように営業に悩んでいる人たちをサポートしたいとの思いから、2006年に独立。著者に『訪問しないで「売れる営業」に変わる本』(大和出版)、『トップ営業マンのルール』(明日香出版社)、『面接ではウソをつけ』(星海社新書)など多数。
http://www.tuki1.net/
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