仕事で関わる人に対して「バカな人だ」と思ったことはないだろうか。そうした人とは、いったいどんな人たちなのだろうか。
自分で考えない人
42歳の輝夫は有名国立大学を卒業後、一流商社に就職した。その後、数社を経て、今は精密機器メーカーで中間管理職をしている。彼は事実やロジックをベースに仕事をする人で、会社では幹部候補として将来を期待されていた。そんなある日、会議で「あなたはどう思いますか?」と質問されると、何も答えられなかった。
彼には自分の意見がなかった。自分ではさまざまなことを知っていて、考えているつもりだったが、実際には他人の意見に同調するだけの「自分では考えない人」だった。
また、彼は今後のニーズや将来の計画などという未来のテーマになると、まったく想像力を働かせることができなかった。会社は、期待していた能力を持っていないことや現場から苦情が上がっていたことから、異動してもらうことにした。
話を聞かない人
32歳の結実は保育士として保育園に勤務し、アニメ声優のような声が子供たちを楽しませていた。ところが、保護者の相談にはまったく耳を貸さず、保育士同士の打ち合わせでも話を聞いていなかった。彼女は、他人が話しているときに自分が話すことばかりを考え、話を聞く余裕を持てないのだ。
保護者からのクレームが多いので、園長は彼女に「よく話も聞いてくださいね」と注意するが、逆上してしまうありさまだった。彼女は子供が好きで、子供からも慕われているが、働き続けてもらうことは難しいと園長は考えていた。
「バカな人」とは?
輝夫と結実はタイプが違うが、職場での扱いに困る人である。「残念な人」とか「バカな人」と形容されるかもしれない。そういう人とは、具体的にどんな人のことをいうのだろうか。書籍『バカの研究』によると、さまざまなタイプがいるようだ。例えば、なんでも信じたがる人や他人の意見を自分の意見のように話す人、起きた出来事を起きることが分かっていたかのように話す人、ネガティブな出来事ばかりに関心を抱く人など、いろいろなタイプがあるという。
本当は知らないのに知ったかぶりをしたり、自分の思い込みを真実のように思い込んでしまう人もいるようだ。自分の知識のレベルを知っている人は知ったかぶりはしないが、「バカな人」は自己愛性人格傾向が強く、自己評価も高いので知ったかぶりをしてしまう。こうした現象は、「説明深度の錯覚」ともいう。自分では物事の仕組みを理解して説明できると思っていても、実際には理解が浅く、不完全な状態のことをいう。
相手の気持ちを理解する
また、自己認識の能力がないために、問題を起こしやすい人もいる。自己認識とは、自分をコントロールするのに必要なものだ。自分の思っていることや行動を心の中で客観的に考えたり、観察したり、評価したりできる能力である。それを持っていなければ問題を起こすだろう。輝夫と結実は自己認識が欠けていると言える。
2人は共感力も乏しいかもしれない。対話をしていれば相手の気持ちが理解できたり、共通の話題で盛り上がったりするだろう。また、相手が何を考えているかを認識するだけでなく、相手と同じ気持ちになったり、より添った行動もできる。それを共感力と言い、輝夫や結実には欠如していると考えられる。だから職場で、彼らをフォローできなかったのかもしれない。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。