ネットでバーゲンやディスカウントセールの情報を見て、衝動買いをしてしまった経験のある人は少なくないだろう。夜中は、なおさら衝動買いをしやすい状態になるようだ。
夜中の衝動買いが止まらない
28歳の千明はクリニックで事務をしており、夜中になると衝動買いをしてしまうことで悩んでいた。以前は、寝る前にスマホで推しのアイドルの記事や画像を楽しむだけだったが、あるときから衝動買いをするようになった。きっかけは、好きなブランドの洋服がネット通販で50%OFFになっていたことだ。
千明は衝動買いをすると、今までに感じたことのないような快感があり、届くのが楽しみで仕方がなかった。洋服だけでなく、人気のスイーツも買うようになった。やがて、注文したスイーツを推しのアイドルからのプレゼントだと妄想するようになり、さらに届くのが楽しみになった。そして、ついに貯金を使い果たしてしまった。
ストレス発散か?
千明の勤務するクリニックでは、患者からのクレームが頻繁にあった。クレームは「ろくに診察もしないのに、診察料を取るのはおかしい!」「検査もしないで、どうなっているんだ!」などというものだ。院長は自分の専門外の診療科を標榜していたので、詳しい検査もせず、無難な治療しかしなかった。
院長はクレームに応じず、受付の千明が対応していた。そのせいで精神的に疲れ果て、精神科でうつ病と診断されるほどだった。他人に知られたくないので誰にも相談できず、ストレスは蓄積するばかりだった。夜中の衝動買いは、それが原因かもしれない。
精神の筋肉の使いすぎ
心理的リアクタンスという言葉がある。今まで我慢していて自由を奪われてきたと感じたときに、それを回復しようとすることをいう。千明は将来のために生活を切り詰め、欲しいものを我慢して貯金をしていた。しかし、職場でのストレスが限界を迎え、不満が形を変えて衝動買いになった可能性がある。
自制心という「精神の筋肉」を使いすぎてしまうと、論理的な推論や理性的な思考ができなくなってくることが分かっている。千明はクレームへの冷静な対応で「精神の筋肉」を使い果たし、理性を失ってしまったとも考えられる。クリニックに勤める前の職場では衝動買いをすることはなかった。
睡眠不足で判断力が低下
夜中は、昼間に比べて判断力が低下してしまう。千明は自宅に帰ると、完全にリラックスモードに入ってしまう。コンビニで買ったツマミで晩酌をしていると、極上の気分になれるのだ。そして、寝る前にスマホで推しのアイドルを見てから衝動買いを始める。
ある科学誌に、睡眠不足な人ほど無駄づかいが多くなるという論文が掲載されていた。睡眠不足で脳の行動抑制が効かなくなり、衝動買いをしやすくなるという。
夜、千明はスマホで楽しんでいるうちに睡眠不足になり、アルコールの影響もあって脳の抑制作用はかなり低下していたと考えられる。しっかり睡眠をとれば、衝動買いが減るかもしれない。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。