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ココロの座標/河田俊男

第98回「ギャンブル依存症になった男」

人の心が引き起こすさまざまなトラブルを取り上げ、その背景や解決方法、予防策などを探ります。(2024年5月21日)

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 3月、米大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳、水原一平氏の違法賭博問題が発覚した。昔からギャンブル絡みの問題や犯罪は珍しくなく、頻繁に起きている。なぜ、ギャンブルにはまってしまうのだろうか?


ギャンブルで身を持ち崩す

 42歳の徹也は建築関連の仕事をしていたが、現在は無職でギャンブル依存症だった。きっかけは、上司の誘いでパチスロや競馬、競艇などをやるようになったことだ。ギャンブルで預金を使い果たし、職場の人たちや金融会社にも借金をするようになった。やがて職場に居づらくなり、逃げるように会社を辞め、妻とも不仲になって離婚した。2人の子供は妻が引き取ることになった。

 徹也は家を出てマンションを借りたが、貯金が底をついて家賃を支払えなくなり、ホームレスになった。お金を得るために窃盗や万引きを繰り返していたが、ある日、現行犯で逮捕されることになった。





満たされない心を紛らわせる

 徹也は、きつい仕事の割に給料が少ないことに不満を持っていた。そのため、お金を増やそうとしてギャンブルを始めた。だが、次第にお金を増やすという目的ではなく、満たされない心を紛らわせたり、さまざまなストレスを忘れようとしたりして、だんだんのめり込んでいった。ギャンブルは娯楽として楽しんでいるうちはなんの問題もない。だが、お金を借りてまでやるようになったら依存症の可能性があり、深刻な問題である。

 アンヘドニアという精神医学用語がある。何をしても「面白くない」「楽しめない」という気持ちで毎日を過ごしているような状態で、うつ状態の中心的な症状を指す。徹也がギャンブルに依存するようになったのは、アンヘドニアを中心にさまざまな原因が複合していると考えられる。ギャンブルに夢中になっているときだけアンヘドニアから解放されたので、ドラッグのようにギャンブルを続けるしかない状態になった。


自制心があるかどうか

 健康的にギャンブルを楽しむには、自制心が必要である。あらかじめ予算を決めたり、時間を決めたりしていれば、深追いせずに止めることができるはずだ。自制心は強さではなく、自制心を働かせなければならない事態を避ける力を備えているかどうかである。例えば、ギャンブルを楽しんだ後、居酒屋に行って仲間と楽しい酒を飲んだり、友人とサッカーの練習をしたりしてできるということだ。

 また、ギャンブルに興奮していると抑制の脳内物質が働かなくなることが分かっている。そのため、自制心が働かなくなるのだ。


根拠のない、ゆがんだ思考

 徹也は、一度ギャンブルに勝ったら次も勝てると思い、負けたら次は必ず勝つと思った。また、例えば競馬で2000円の元手が6万円になったとしたら、元手が2万円だったら60万円になったはずだと考えた。そのため徹也は、借金しても簡単に返済できると信じ込んでいた。だが、他人には理解されないので嘘をつく。例えば、後輩に借金をするときは「倍にして返す」と言ったり、「妻が病気で手術しなければならない。お金を貸してもらえないか」などと言う。ギャンブル依存症者は根拠のない、ゆがんだ思考をしたり、嘘をついたりする。
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●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。
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