最近、若い新人の対応に苦慮している上司が多いようだ。いわゆるZ世代と呼ばれる新人たちである。上司の中には対応に苦慮して、メンタルを病んでしまう人もいるかもしれない。
プレッシャーから逃げたい
38歳の直哉は、リフォーム会社の営業部に10年間勤務している。最近、24歳の新人が入社してきて、彼の指導に苦労していた。まず、新人を1カ月間、研修の一環として客先への営業に同行させた。その間、新人はメモをとることも、質問を発することもなく、まったくやる気が感じられなかった。
1カ月の同行が終了すると、直哉は新人に「今日から1人で営業に出てみてください」と言った。すると、彼は「何をすればいいのか分かりません」と返してきたので、「とにかくやってみてください」と言った。しかし、新人はまもなく退職してしまった。以前にも同じようなことがあり、直哉は3人の新人を退職させてしまった。
直哉としては注意深く対応したつもりだったが、また失敗してしまった。新人の育成期間中、直哉は毎朝めまいや吐き気に襲われていた。毎朝「今日で限界だ」と感じていたのだ。というのも、自分なりに工夫して指導しても、彼らには通用しないからだ。直哉はすっかり気力を失い、出社できない状態になった。
指導方法が分からない
直哉は、転職した元同僚に相談してみた。すると元同僚は「うちの会社の若者も、ささいなことにも責任を持ちたくない傾向がある。それに、失敗を恐れるから積極的に仕事に取り組もうとしない」と言った。
直哉は過去に辞めた2人の新人のことを思い返した。1人目は、積極的に営業をしない新人で「もう少しやる気を出したどうだ?」などと言ってしまった翌日、辞めた。2人目は「どうしたら成約できるか、考えてみて?」と言ったら、3日後に辞めてしまった。その後、社長に「もう新人の育成はできません」と伝えたが聞き入れられず、また新人が来てしまったのだ。
新人を育成している間は自分の営業成績は落ちるし、報酬も下がる。直哉にとっては、何もいいことがなかった。そもそも指導方法が分からないし、会社もサポートしてくれなかった。
辞めた新人に共通していること
辞めた新人たちに共通しているのは、Z世代ということだった。直哉が若いころ、上司や先輩から受けてきたのは昭和タイプの教育で、忍耐と精神力を鍛えて営業力を体で覚えるというものだった。だが、Z世代には通用しない。「やる気を出せ!」などと怒鳴れば辞めてしまったり、パワハラで訴えられかねない。しかし、何もしないわけにもいかない。直哉は毎日のように悩み、やがて体調を崩し、メンタルを病んでしまった。
Z世代が早期離職するのは、キャリアについて直哉の世代とは異なる考え方を持っていることもある。彼らは、最初からチャンスがあれば転職するという考えを持っていた。働き続けたいと思われる会社づくりをしないかぎり、彼らの離職は止められない。テレビでは、毎日のように転職エージェント会社のコマーシャルが流れている。Z世代は自分の市場価値を上げたり、キャリアアップをしたりするために転職を考えているのだ。
●文/河田俊男(かわだ としお)
1954年生まれ。心理コンサルタント。1982年、アメリカにて心理療法を学ぶ。その後、日本で心理コンサルティングを学び、現在、日本心理相談研究所所長、人と可能性研究所所長。また、日本心理コンサルタント学院講師として後進を育成している。翻訳書に「トクシック・ピープルはた迷惑な隣人たち」(講談社)などがある。